#42 Article 1866 Posted at 1995/01/19 09:49:00 by 鳥坂(細川)司 (MAP703) [TATEMONO]
Subject: 地震と建築物
建物損壊は非難さるるべきか? 剛体構造(剛性が高い)である鉄筋コンクリート建築は、限界を超えて応力を受 けた場合、最も弱い柱が破砕されます。それが引き金となって、同一フロアの柱が 連鎖的に破砕され、フロア全体が縮潰することとなります。しかし、それは応力を 消化し、倒壊(丸ごと倒れる)や全面崩壊(バラバラに崩れる)を回避することに も繋がるため、垂直構造体の破砕は、設計時から意図的に仕組まれている事項でも あります。柱の内部には鉄筋が、縦方向とそれをリング状に束ねるように配置され ていて、破砕後のコンクリート片を飛散させず、なお荷重を支える構造になってい ます。 無論、破砕しないように、強度を大きく取るに越したことはないのですが、地上 部の柱ばかりを強くしても意味がありません。非常に剛性の高い鉄筋コンクリート 建築は、往々にして根切れ(基礎との連結部分が破砕される)を起こして、そのま まの姿で倒れる事があります。剛性のあまり高くなくとも、周辺地盤の液状化が発 生した場合、ちょうど基礎との連結部分に大きな剪断圧力がかかって、根切れが発 生する場合があります。 この根切れまで対策を取るとなると、一般的な同種の建築物の数倍からの費用が かかるそうです。建築物を発注する側も、設計する側も、平時の発想に基づいた現 実的な妥協として、次のような発想が生まれてきます。 設計限界値を超える地震の応力を受けた場合、建物の一部が破砕することによっ て応力を逃がし、倒壊・全面崩壊を回避する。建物は再使用不可能となるが、内部 の人間の安全は確保する。フロア縮潰が起きても、避難が可能な程度で収まるよう な設計とする。 この発想はかなり魅力的です。鉄筋コンクリート建築内部における地震発生時の リスクが、木造建築内部のそれ並に低下する事と引き替えに、建設コストの低下を 図れるからです。無論、建築基準法等の法令に抵触するほど強度を落としたりしま せんし、「地震が起きたら人死にもやむを得ず」でもありません。「人命を守るた め、予定調和的破壊によって、建物が損壊する」なのです。 ただし、あくまでもこれらは設計時の発想です。現在はコンピュータ解析が発達 し、荷重・応力に対して、構造・強度を綿密に計算できるようになっています。こ のため、安全係数はギリギリ1倍を越える程度で設計されることが多く、このよう な設計で施工管理が悪い(要するに手抜き工事)と、設計時の予定以上に損壊が発 生する事になります。 だから何だといわれると困るのですが、兵庫県南部地震における大規模な建築物 等の損壊は、建築工学やら建築技術の責任じゃないと言いたいわけです。 今回の地震でも、コスト意識がないとか、税金の無駄遣いとか言われる役所の建 築物は概ね無事です。これが何を意味するかというと、今回の震災は民間における、 安価性重視の誤ったコスト意識が生んだ人災の可能性がある。ということです。 昭和初期の建築物は、関東大震災の教訓から闇雲に安全係数を非常に大きく取っ ていました。その後、建設費削減の目的から建築工学の発達させられ、これによっ て安全係数が1を切るような建築物も可能になりました。安全性の面からこれらを 規制したのが建築基準法ですが、それを満たしていれば安全なのではなく、それ以 下では危険だという基準にすぎません。満たすための基準ではなく、どれくらい越 えられるかというための基準なのです。これを勘違いして、如何に基準をクリアす るかに汲々とした設計者や、それを黙認する発注者の責任は追及されるべきだと思 います。もっとも、十分に安全な建築物を高価であるとして指弾する、われわれ市 民のあまりにも低い問題意識こそ問われるべきかもしれません。 おまけ: 在来工法の木造家屋は、揺れにより壁が崩壊して骨組みが歪み、屋根 (または2階)の荷重に耐えられず圧潰するというパターンが殆どです。倒壊する ケースも、同様に壁が崩壊したあと揺れにより引き倒されるというパターンです この辺はパトレイバー用に都庁の建築職あたりから聞きかじったものをベースに しています。彼らに言わせると、民間建築の多くは、基準をクリアしているものの コスト偏重の非常に危険なものだそうです。 この後、非常に不謹慎かつ予言的なことを書いたら、ハングしてしまった。 (東京での可能性とか、避難民非難とか) 何故? もしかすると、東京もやばいかな・・・。 面倒くさいので、書き直しはしません。 とりり