#148 Article 22823 Posted at 1995/11/09 22:37:45 by サメくん (MAP5059) [JOHAN]
Subject: 希望のしらべ・・・
「希望のしらべ(その4)」 「うわぁぁぁぁッッ!!」 がしっと右肩を掴まれ、持ち上げられるふぇるみの眼前で、顔を半分吹き飛ばされた カリフが、真っ赤な唇を妖しく歪めている。 「お前の祖父から受けたこの傷は、お前の生き血で癒すとしよう」 恐怖にこわばるふぇるみ。その手から杖がこぼれ、カン高い音を立てて転がる。 カリフが、薄く微笑んだ。 「いい表情だ。それでいい。人間の恐怖と絶望こそが、我らの乾いた心を癒すのだ。 さあ、祖父のあとを追うがよい」 ふぇるみの両肩をがしっと掴み上げ、カリフは銀色に光る牙を剥き出して、ふぇるみ の首筋に迫る。 「僕は、お前になんか負けない!!」 ばぎッ!! 生意気な事を言う少年の上腕を、カリフの繊手が砕いた。 「……ッッッ!!」 苦鳴をこらえ、なおもふぇるみは必死にカリフを睨みつける。 「気が変わった。楽には殺さぬぞ、小僧」 真っ赤な瞳を剥きながらカリフが宣言した呪詛は、死そのものよりも恐ろしく響いた。 だが、ふぇるみは目も逸らさない。 ヴァンパイアの瞳には、獲物を無力化する催眠魔力がある。 ましてや、ヴァンパイアロードの瞳を見続けて催眠状態に陥らないのは、少年の一途 さ故か。 カリフの心にかすかな動揺が走る。 「五体をバラバラに砕き、その血を一滴残らずすすってくれようぞ!」 カリフの手に、再び力がこもる。 「お前に、なんか、負けるもの……かぁぁぁぁ!!」 引き千切られる苦痛と、死の恐怖を吹き飛ばすかのように、ふぇるみが絶叫した! その瞬間、光があふれた。 カリフによって遮られている陽光よりも暖かく、そして優しい光が。 目の焼ける苦痛に、カリフが思わずふぇるみを放して後ずさる。 「ぐぅおおおおぉぉぉッ!! な、なんだ。この、光は……」 背中から地面に落ちるふぇるみ。 だが、その小さな身体は優しく抱き止められた。 柔らかな感触と温もりが、こわばりきった彼の心をほぐす。 「……だ、れ……?」 見上げるふぇるみの瞳に、彼を膝に抱いたまま、祈りを捧げる金髪の女性が映った。 柔らかな光をまとうその姿は、ふぇるみに夢でしか見たことがない母親を連想させる。 両手をそっと合わせ、かろく目を閉じ、一心に祈る女性の全身から放たれる柔らかく 暖かな光が、カリフの全身を焼き続ける。 「貴様か!? 白き巫女、ジョアン!」 各所から黒い瘴気を上げながら、カリフが呻いた。 「……闇の一撃、光を砕かん!」 カリフが、右手を顔前で鷲爪のように五指を屈曲させ、闇の念を込め上げる。 たちまち、細い紫電を幾筋もまとった闇の球が現れ、空気をただれさせていく。 真紅の唇を笑いの形に歪め、カリフは、すっと左手をジョアンとふぇるみに向けて突 き出した! 「!?」 溢れる邪気に、目を見開くふぇるみ。 黒い閃光が、闇の尾を引きながら二人に迫る�。 「させるかぁッ!!」 動ぜず、祈りを捧げ続けるジョアンの顔前で、一振りのレイピアが闇の閃光を受け止 めた! 鞘から抜いてさえいないそのレイピアは、しかし、圧倒的な力感を放って闇の珠をい ともたやすく切り裂き、霧消させる。 「それは、“破壊の象徴”!! 『死神』ヒューリか!」 負け続け、それでもなお生き残り続けた戦士の不名誉な二つ名に、エメラルドの髪を もつ青年は不敵に微笑んで見せた。 「ジョアンはやらせん! 我に、ためらいなし!!」 ヒューリの大きな背中に、ふぇるみは安堵を覚える。 たちまち、気が遠くなっていく。 そっと、ジョアンの白い腕がふぇるみを包み、ヒューリのレイピアから放たれた激烈 な閃光を優しく遮った。 「おやすみなさい」 白き巫女のささやきに、ふぇるみは目を閉じた。 安らぎが広がる……。 いよいよ金色の煌きを増す金属塊に、ふぇるみの槌が次々と振り下ろされる。 ひと打ち、ひと打ち、確かな想いを刻みながら。 涼しい風が頬を撫でた。ふぇるみは、思い出をひもとき続ける。 ……それから僕は、ジョアンやヒューリと一緒に、愛と勇気と希望の試練を乗り越え て、魔族と戦い続けた。 その4終り サメくん