#148 Article 22821 Posted at 1995/11/09 22:36:00 by サメくん (MAP5059) [JOHAN]
Subject: 希望のしらべ・・・
「希望のしらべ(その2)」 「儂はこれまで、様々な武具を創ってきた。その中には、儂が見たことも聞いたことも ないものもあった。じゃがな、人は生きている限り、常に学んでいくものじゃ。いかに 巨大であろうと、いかに複雑なものであろうと、儂ら鍛冶屋に鍛え上げられぬものなぞ 無い!」 真摯な祖父の瞳の輝きに、ふぇるみの蒼瞳が引き込まれる。 「じいちゃん……」 祖父は、灰色の瞳を優しく細めた。 「しかしじゃ。ひとたび嫌だ、無理だと思ってしまえば、火かき棒一本さえ鍛えること はできぬ。己を信じよ、ふぇるみ。打つ前から投げ出しては、何も生まれんのじゃぞ」 思わずうなずくふぇるみの姿に、老人は微笑を浮かべた。 頬の傷跡が歪む。 「己が創り出したものが、何のために、どのような想いを込めて使われるのか。それを 知らずして、鍛冶屋は勤まらぬ。そしてそれは、お前自身で学ぶしかないのじゃ。良い な、ふぇるみ」 祖父の想いをまっすぐ受け止めて、ふぇるみはこくっとうなずいた。 「ぼく、頑張るよ。じいちゃんが昔、いろんな所を旅して回ったみたいに、この世界の こと、自分の目で見てくる!」 破顔する祖父の胸に、ふぇるみは飛びこんだ。 ごつごつした手が、赤銅色の髪を撫でる。 無骨なそぶりの中に、ふぇるみは確かに祖父の深い愛情を感じとった。 「じゃ、行ってくるよ。じいちゃん」 旅立ちの朝。 戸口から差しこむ早朝の光を震わすように、ふぇるみの声が響き渡る。 「うむ。気をつけてな」 マントにすっぽりと身を覆ったふぇるみに、老人は穴だらけのつば広帽子をかぶせた。 一本の杖を、ふぇるみに渡す。 「これ……じいちゃん、今まで触らせてもくれなかった杖だ。いいの?」 祖父は大きく頷いた。この艦と同じように、本来はこの世界の代物ではないその杖は、 奇妙な構造をしてみえる。 「精霊を友とするお前なら、その“火と風と水の杖”を使いこなせるじゃろう。まだ、 戦は続いておる。持っていくのじゃ」 自分の身は自分で守れてこそ、旅する資格がある。 祖父の励ましに、ふぇるみは勇気が沸き立つ思いだった。 「うん。じいちゃん、ありがとう!」 胸に飛びこみたいのを我慢して、ふぇるみは明るく笑った。 祖父も、それに応えて笑顔を見せる。 その時、突然あたりが真っ暗になった。 太陽が月ほどの輝きになり、生臭く生暖かい風が辺りを満たす。 ギンッと激しい光を瞳に宿らせて、老人が辺りを鋭く見渡した。 その手には、いつのまにか愛用の槌矛がある。 「魔族じゃな。また、性懲も無く来おったか!」 このエデンの土地は、本質的には魔族を寄せつけない性質をもっている。だが、反魔 族軍に優秀な武具を流す鍛冶屋がここにいると勘ずいてからというもの、魔族は再々こ こを襲撃してきたのだ。 しかし、ことごとく老人の巧みな戦いぶりによって退けられている。 「お初にお目にかかる。……我が名は『カリフ』。ヴァンパイアロードとして、東面の 邪賢者『フィロソフィ』様にお仕えする者。今までの襲撃は、ほんの小手調べ。今日こ そ、お生命頂戴つかまつる」 いきなり室内にわき上がった黒い影が、実体化しながらそう告げた。 血色の瞳も涼やかに、白皙の美貌を漆黒の闇で覆ったヴァンパイアロードの姿は、い かにも美しかった。闇の美であろうか。 だが、彼から吹き付ける鬼気は、ふぇるみの足をすくませる。 「ふぇるみッ、早く逃げるのじゃ! ここは儂が食い止める�。」 ふぇるみを庇うように移動しながら、祖父が叫んだ。 「で、でもッ」 “火と風と水の杖”をぎゅっと握りしめながら、ふぇるみが躊躇する。 自分がいれば足手まといにしかならないと分かっていても、男の子の矜持が彼を奮い 立たせていた。 「逃がしはせん。我ら魔族の障害となる要因は、全て排除せねばならぬ」 冷徹にそう言い放つと、カリフは胸元から何か取り出した。 無造作に蒔かれた種のようなものが、たちまち何体もの焦げ茶色の骸骨兵となって立 ち上がる。その手には皆、歪んだ剣と盾が握られていた。 「竜牙兵か。砕いても、潰しても蘇る不死身の兵士。やっかいなものじゃな。……ふぇ るみ! 行くんじゃ。儂は負けぬッ!」 不敵な笑みを浮かべつつ、祖父は片手でふぇるみを戸口に追いやった。 その2終り サメくん