#148 Article 22820 Posted at 1995/11/09 22:35:01 by サメくん (MAP5059) [JOHAN]

Subject: 希望のしらべ・・・

久々に、SSHU局 情報調査部 歴史探求分析課々長からの報告です☆

 これは、ジョアン時代のお話であり、冬コミ発行の「みんなにおまかせ」オフセット
版用に書き下ろしたものです。
 長いため、6つにアーティクル分けしてあります。

 では、ごゆっくりお楽しみください。

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 『希望のしらべ』

 深緑が、宵闇に暗く沈んでいる。
 崩れ果てた遺跡が、蒼い月光に浮かび上がり、星々の煌きが山の端を際だたせている。
 東に、かすかな曙の色がたなびく静寂の時を破って、鮮烈な金属と金属を打ち合わせ
る音が響きわたる。
 カーンッ! カーンッ!
 山々に、木霊となって行きつ戻りつする鋭い響きの源は、遺跡の側の灯り元。
  真っ赤に熱せられた金属を、一心不乱に打ち据える鍛冶の槌。
 振るうは、まだいくらも年端のいかぬ少年である。
 彼の赤銅色の髪が吹き抜ける旋風に揺れ、蒼色の瞳が緋色の炎を映す。
 間一文字に結ばれた口元を、大粒の汗が幾筋もよぎる。
 真っ直ぐな視線を向けられた金色の金属塊は、槌に打たれるたびに鮮やかな虹を放っ
ていた。
 すぐ側を流れる清流のせせらぎが少年の耳を打ち、夜色の風が頬を撫でる。燃え盛る
緋色の炎は、まるで少年を鼓舞するかのように暴れ続けている。
 火と風と水の声が、少年の心を励ましているのだろうか。
 少年は、自分が創り上げようとしているものがいかなるモノかを熟知していた。
 いかに危険なものか、一つ間違えれば、この“魔法の世界”そのものが消失するかも
知れないモノであることを。
 だが、少年の手は緩まない。一時の遅滞も無い。
 飛び散る虹のしずくの中に、少年は、今は亡き唯一の肉親の姿を思い出していた……。

「ふぇるみよ。鍛冶を何と心得る?」
 もう、幾度繰り返されたかわからない質問に、ふぇるみは苦笑しながら振り返る。
「じいちゃん。『鍛冶は“創造”』。それ故『けして澱まず、倦まず、諦めず』でしょ。
わかってるよ!」
 白い口髭とあご髭を豊かにたくわえた小柄な老人は、傷だらけの頬に凄味のある笑み
を浮かべた。
「そうじゃな。のう、ふぇるみよ。もう、幾年も戦は続いておるが、いまだに終る気配
も見えぬ。それどころか、魔族どもの跳梁はますます激しくなるばかりじゃ」
 そう言いながら、老人はがっしりした身体ごと窓に向き直ると、パイプにゆっくりと
火を入れた。
「それ故、こうして儂とお前の二人。ずっと、このエデンの山中で、戦う者達のために
武具を創り続けてきたな。じゃが、そろそろお前も一人立ちせねばのう」
 祖父の吐き出す煙に眉をしかめながらも、ふぇるみは腰を下ろしていた座椅子から飛
び跳ねるように立ち上がった。
「ぼく、じいちゃんと一緒がいいよ�。」
「ふぇるみッ�。」
 祖父の厳しい瞳に見すくめられ、ふぇるみの小さな身体がこわばる。
「ふぇるみよ。……お前に、この艦が創れるか?」
 ふぇるみは、自分の家でもあるこの金属製の構造物をゆっくりと見回した。そこには、
造り付けの木机、窓枠はともかくとして、赤く錆びの浮いた壁や天井に、丸や四角のメ
ーターらしきものがある。
 そもそも、この構造物の中がいかに入り組んだ構造をしているかは、通気孔などを這
い回って探検したふぇるみ自身がよく理解しているのだ。
 深い山合いに立つ、高さ30m程の塔。所々、突き出しているでっぱりは、よくよく
見れば翼にも見える。
 外見を思い起こしながら、ふぇるみはゆっくりと首を横に振った。
「無理だよ、じいちゃん。一人でなんてできっこないよ」
 こんな大きなモノ。それも、この世界のものじゃないのに、とふぇるみの震える瞳が
語っている。
 老鍛冶士は、大きくパイプを吹かした。
「確かに、今のお前には無理じゃろう。じゃが、これもまた人が鍛え上げたものじゃ。
お前に、出来なかろうはずはない!」
 白い煙を吐き出しながら断言する祖父の勢いに、ふぇるみは声も無い。
 まだ、十歳になったばかりの少年は、普段よりも小さく見えた。

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