#140 Article 2299 Posted at 1994/07/01 16:45:15 by ゆ~さく (MAP1754) [STORY]

Subject: Re:*47 小説『熱血最強ゴウザウラー』/"もう一つの最終回" /2298 ............. /1822 /1821

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決戦だ。

サラマンダは緑の山々を黒々とした死体に変えて禍々しくも美しいそのボディを
見せつける様に悠然と浮かんでいた。
巨大な独楽の様なその姿は周囲に与えた破壊の結果に満足しているかの様に
黒煙を上げる山々の狭間…谷あいにジッと動かず、ただゆっくりと回転している。

キングゴウザウラーはその数km手前の谷あいに舞い降り、稜線から頭を出さない
様に注意しながら慎重に進んでゆく。
その手には既にキングソードが握られていた。
足元の農道では、キングの向かう方向とは逆方向に避難する農家の軽トラックや
ワゴンが数台すれちがっていく。
トラックを運転している農家のおっさんが手を振り上げて何事か叫んでいた。
良く聞き取れないが「よく来てくれた、あんなヤツやっちまえ」とか、そんな
類いの声をかけてくれているらしい。
キングゴウザウラーは無言のまま小さく手で挨拶すると、電線を引っ掛けない
様に、使われて無い畑をフットポイントに選んでジリジリと進んでいった。
畑を踏み固めてしまう事になるが仕方が無い。

「左30度。35度。きょりは……ええと…10キロ。9キロと半」
レーダー手の結花が自分のコンソールの情報を読み上げる。

「相手が高熱を発しているので、視界に入らなくても熱源反応で位置を追える
 のが有り難いですね」
「こっちの姿は捕らえられていないのかしら、教授?」
「さあ、それが問題です。何しろ相手の行動パターンが読めませんから…
 もう既に探知していてこちらの出かたを見ているのかも知れませんよ」
教授の言葉に少女達の内の数人が、怯えてその身をキュッと縮めるのを
隣に居る者は感じていた。
冷静さを装っては居る教授の身体も、実は緊張のため細かく震えている。
それを秀三は背中で感じ取っていた。
一方五郎も、頬に当たるエリーの足が石の様に固くこわばって来るのを感じた。
彼女達は、その役職から、常に決して弱みや狼狽をみせる事が出来ない。
無理して踏ん張って耐えているのだ。
今更ながらにその事を知り、少年達は己れの身体の温もりを通して自分が
心の中で「頑張れ」と叫んでいるのが彼女等に伝わればいい、と願った。

教授が素早くキーボードを叩く。拳一の目の前、キングの眉間の位置に当る
スクリーンに周囲の地図が転送された。
「周辺の地形です。あと3キロ程でこの谷はサラマンダの居る、向うの谷と
 繋がります。そこからは敵の視界に入ります。目標までの距離は約5キロ」
「どう思う、エリー」
拳一が指揮官の意見を尋ねた。
「…距離が遠すぎるわね。周囲に何も隠れる物が無いわ。ヤバいかも」
「隠れる物があったとしても、敵がこっちの位置を探知出来ると
 したら意味がありませんよ。あれの武器はどんな物でも貫通して
 来ますから。拳一君、物陰に隠れる作戦には期待しないで下さい」
「判ってるって。5キロぐらい一気に駆け抜けてやらあ」
「そうね、そうするしか無さそうね。覚悟を決めましょうか」
「はい、敵が地面近くに居る今の内が有利です。空中での機動力は
 やっぱり足で地面を蹴って動ける地上戦のそれにはかないません。
 それに空中では敵より低い高度には居られないというデメリットが
 あります。地上で相手と同じ水平の位置に居られるなら、奴がいくら
 弾を射って来ても地球は安全です。ここら辺は相当な高地ですし、
 近くに高い山脈もありませんから」

「よし、行くか。皆んな、いいか? 次の角を曲がったら突っ込むぞ」
全員の了解の意味を込めた息づかいが伝わって来た。

これだけギッチリ身を寄せ合っていると、言葉を介さなくても意志が伝わる。
拳一は頭の片隅で、この乗り組み方がひょっとしたら俺達に一番ふさわしい、
俺達らしいやり方なのかも知れないな…と感じていた。

なんで今までコレやらなかったんだろ。

拳一は、この局面の中でクスリと笑い出したくなる程のものを感じていた。
恐怖はない。
焦りも、相手への怒りすらも感じなかった。
全員の生命を守らなければならないという、針の様に研ぎすまされた緊張感が
澄んだ意識の中にあるだけだ。

仲間がいるからだ。仲間がいるからこそ、こうなれるんだ。
彼は今ではしのぶと二人切りで来る事にならなかったことを心底感謝した。

谷の合流点が近付き、稜線が低くなって来た。
キングゴウザウラーは腰を低くかがめた格好で谷の向う側をうかがう。
「結花、敵の位置はどうだ」
「動かないよぉ」
その必要も無いのだが、小さなひそひそ声で結花が答える。
全員が息を詰める。
「よぉし…行くぜ」
キングゴウザウラーはふわりとその身を浮かせると、ダッと大地を蹴った。

その瞬間、急激に襲って来たGや空中に投げ出された様に感じる浮遊感、
次にキングの片足が着地した時の衝撃などに翻弄されながらも、全員は
一固まりになって一つの生き物の様に呼吸し連動した。
ジェネレータの出力を上げる者。少しでも光弾を迎撃するべく、全ての
火器類を立ち上げて待ち構える者。距離を読み上げる者。
走りを担当する拳一を補佐しながらも、ナビゲーター役のしのぶと浩美は
いつでもキングの巨体を浮かせられる様に各部のスラスターを操作して
バランスを取り、重量を打ち消す事に務めた。

居た。サラマンダだ。相手の姿が視界に入って来た。
敵の姿はくねくねと曲りながらもほぼ一直線に続く谷の奥、黒煙と水蒸気を
上げる山並みの中に輝いていた。5km離れていてもはっきりと視認出来る。
相手がこちらに気付いたらしい。
たちまち、その中央部がギラリと強烈に光る。
全員が身を固くし、ある者等は怯えまいと身体をピッタリ押し付けあった。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――っっっッ」

拳一がキングソードをブン回す。動力担当の者が、ジェネレータの
出力をキングの機動性や推力や火器の性能を殺さない様に割り振り、
残りの全てをそれまで落としていたソードのフィールド形成に回す。

サラマンダが迎撃して来た。

光弾の雨が横殴りに叩き込まれてくる。たちまち迎え撃つミサイル、ビーム。
突ッ走るキングゴウザウラー。
光弾をなぎ払う。身体を斜めにして群れ飛ぶ光弾や爆光の中をかいくぐる。

敵の姿が迫って来た。

拳一はゴウザウラーに拝み斬りの様なフォームを取らせ、いよいよ敵の懐に
飛び込むべくコクピットを守った。
しかしその時。
拳一の目の隅にチラと横切る物があった。
そんな!?
それは山あいの一本道、普段は人けも無い林間路をやって来る、
園児を満載したマイクロバスだった。
遠足にでも来た最中に山火事に遭遇し退路を断たれ、あちこち逃げ回って
ようやくここまで辿り着いた…という所だろう。
踏み出したキングゴウザウラーの足が、園児達のバスに向けてハンマーの様に
振り降ろされる。
拳一は とっさに身体を思い切り翻して回避した。バランスが崩れる。
そこに光弾の一発が吸い込まれる様に飛んで来る。
横倒しになって落下するキングゴウザウラーの巨体に受け身を取らせるのを諦め、
拳一は上体だけ捻ってソードで光弾を弾き返した。
地面に倒れ込んでしまえば、そこに光弾の集中射撃を食らって助からないだろう。
しかし、彼はバックアップしている浩美としのぶの連係プレーを信じた。
その期待に答えるかの様にパートナー達の操作は的確だった。
横倒しになって倒れ伏そうとするキングの巨躯をバーニア全開で支える。
動力担当のボン、育代等が火器の出力を一時抑えて推力に回す。
クーコがオーバーヒートが無いかどうかモニターする。
キングゴウザウラーは光弾の雨の中を横倒しの体勢のまま滑り、吹ッ飛ぶ様に
避けた。光弾の嵐が追う。
黒焦げの山が視界に迫る。しのぶと浩美は踏ん張って、山の斜面ギリギリに
かすめる様にキングゴウザウラーを上昇させた。
機体が悲鳴を上げてきしむ。
全員が乱暴なGに、押し寿司の様に1方向へ押し付けられる苦しさに耐えた。
光弾の射線がキングを追って山に突き刺さり、小山は爆発する様に散り散りに
なって跡形も残さず消えた。
空中にムーンサルトを行なう様に身を踊らせたキングゴウザウラー。
拳一は即座に、"気を付け"の体勢を取る。洋二が翼をたたむ。
空力的に抵抗の無い姿になって、それより早いか遅いか、浩美としのぶが
スラスターをレッドゾーンに叩き込んだ。
動力担当の者は、既にこの時点でソードの出力を切って推力に回している。

いきなりマッハの速度でキングゴウザウラーは空中を横っ飛びに避ける。
光弾の射線が青空にざぁっと巨大な扇を広げるかの様にそれを追う。

殆どゼロのスピードから、突然マッハ。ゼロヨンなら世界記録である。
今度は餅突きをされるかの様に、縦方向に押し潰される少年少女達。
パイプがギシギシと鳴る。皆、必死に耐えた。
金太がこんな条件の中でも、ジェネレータの出力を必要としないミサイルを
放って追撃してくる光弾の群れを相殺する。

山々の斜面ギリギリに見え隠れしながら、キングゴウザウラーは全速で逃げた。
光弾の激流がそれを追い、山々の頂きを粉砕し、なぎ払う。

浩美としのぶは直感的に人が居ないと思われる奥深い山を選び、その懐の
谷あいにキングを飛び込ませた。
光弾の集中砲火がそれを追い、標高数百mの山は煙も残さずに消え失せた。

谷に飛び込み、その中を疾走するキングゴウザウラー。
ここで敵がキングの位置を的確に掴んでいると分が悪い。谷に隠れる意味が無い。
しかし光弾の追撃は途絶えた様だった。だが、高度が低い。急にスピードを
落とすと墜落する。洋二が翼を広げ、エアブレーキの役目を果たした。
今度はドン!と突き上げる逆Gがかかり、全員がベルトに身体を絞め上げられた。
空中で足を進行方向に振り上げる拳一。
タイミングを合わせて脚部スラスターが噴射され、全力の逆制動がかかる。
キングゴウザウラーは一瞬ふわりと宙に浮き、崩折れる様に谷底に着地した。
「バ…バスは…?」
エリーが聞く。
「だ…大丈夫……山の向う側まで行ったとこまではモニタしてたから…
 今頃は安全圏にまで出られているんじゃないかしら…」
息も絶え絶えにワンが答えた。
どうやったのかは知らないが、あの状態の中でバスの行方を追っていたらしい。
全員がホッと安堵の胸を撫で下ろしかけた時、結花が叫んだ。

「来るゥッ!!」

サラマンダが追って来た。結花がモニタしている画面をメインスクリーンに
転送する。凄いスピードだ。もう既にこの谷あいにまで迫って来ている。
来る!
キングゴウザウラーは振り返った。
数km先の、谷の出口に赤い怪物は踊り込んで来た。変形しかけている。
怪物はガバッと顎を開く様に身体を展開させ、襲いかかる蜘蛛さながらに
威嚇のポーズを取って急速に接近して来た。

キングゴウザウラーは腰を低く落とした。
陸上競技のクラウチングスタートの格好だ。剣を眼前に、拝む様に構える。
光弾が降ってくる。
キングゴウザウラーの翼を肩をかすめて、斜めざまに周囲に着弾。
接触した大地が水蒸気爆発を起こして吹っ飛ぶ。もうもうたる土煙を上げて
光弾の群れは地球の丸みをえぐり取って突き抜け、彼方まで飛んでゆく。

金太、洋二、しのぶ、浩美全員が素早く指を走らせる。キングゴウザウラーの
全身から無数のビームが、ミサイルが飛び立って光弾の奔流と正面衝突する。
拳一は動かない。
キングの周囲は大陸を吹っ飛ばすかの如き派手な爆発の群れに包まれた。
その中で、キングは動かない。
最小限の動きで、命中しようとする光弾を右に左に弾き返す。
怪物の姿が目前に迫って来た。
輝く白流の中、肉も骨も持っていかれそうな爆発の殴打に晒されながら、
じっと待ち構えていたキングゴウザウラー。相手が間合いに入る。
居合いだ。
瞬間、斜めに構えた剣で頭部を守りながら、キングの巨躯が跳ね上がる。
周囲1km四方が光弾とミサイル、ビームとの応酬に包まれ、まばゆい閃光と
オレンジの炎が全てを支配して2体の影はその中に見えなくなった。

ガキィンッッ!!!

剣の切っ先がサラマンダのボディを捕らえた。

だが、まだだ。浅い!
スラスターをブッ放してその場からジャンプして逃れ、空中で身体を捻って
素早く振り返るキングゴウザウラー。怪物を視界に捕らえる。

サラマンダは既に方向転換して突っ込んで来つつあった。速い!

ガッと開いた牙の中心から、ギラリと輝く銀色の死が溢れ出し、
全てを覆い隠そうとするかの様に押し寄せて来る。

反射的にしのぶが緊急噴射のキーを拳で叩き付ける。
ドンッ!と彼女の操作がキングの巨体を後方から殴り付け、地面に叩き伏せ
ようとする。拳一は瞬時にそれを受け止める。両足を踏ん張り、最大噴射の
ブラストに体勢を崩されまいと頑張る。
光弾の流れはキングの頭上ギリギリをかすめて走り去った。
スラスターの圧力が消え去る。
そのまま拳一はジャンプの体勢に移る。浩美としのぶがサポート。
剣を降りかぶり、真っ正面に迫る敵に向かって猛然と最大噴射で飛び上がる
キングゴウザウラー。
拳一の気合いの一撃がサラマンダを見舞う。

剣は怪物の四肢の一本をもぎ取った。

だがしかし、すれちがった瞬間のキングゴウザウラーの無防備な背後を
怪物の怒りの咆哮のごとき光弾群が襲った。

衝撃が見舞う。激しく揺さぶられるコクピット。直撃だ!

緊急警報のベル、モニタが赤く点滅する。

もう、少年達の操作は誰が何を行なっているのかなど判りはしない。
全員が融合して一体となり、巨人の活発な動作を一致協力して体現しているのだ。

キングは地面に身を投げ出し、転がる様にして追撃を避け
同時に全スラスター及びバーニアをふかして飛び起きる。
間髪を入れずに拳一はソードで顔面をカバーし、敵の姿を目で追う。

サラマンダは、既に数km彼方まで飛び去っていた。

「被害は!?」
「胸と腰に直撃。指令室大破、消失!」
チョビが怒鳴る。
「エネルギー伝導管損傷。出力が12%落ちます!」
クーコの悲鳴に近い声。
その報告が終わるよりも早く、五郎の的確な指示が飛ぶ。
「スラスターの動力で動きをサポートする。大型光線火器への回路を閉じる。
 キングタイタンは使えないぞ!」
これで既に損傷している脚部のマグナバスターに加えて、
キングの主兵装である強力なビーム発射機が使えなくなった訳だ。
金太と洋二は、ゴウザウラー・マグナザウラー・グランザウラー3体の
搭載火器を主戦力に選んで素早くシステムの切り替えを行なった。

「やつは!?」
エリーが身を乗り出すよりも早く、ツーがメインスクリーンの映像を切り替える。
怪物サラマンダは、数km程離れた谷のもう一方の出口付近を漂っていた。

その胴体と、千切られた四肢の一本からは激しいスパークが噴き出している。

見た所、どうしようか、このまま突っ込もうか それとも引こうかと考えている
様子だった。
しかしそれはこちら側、ザウラーズとて同じ事だ。

「どうする…回り込むか?」
荒い息の下から拳一が唸り声を上げた。

「教授」
エリーが教授の意見を求めた。
「速いですね。敵の動きは」
「そうね。速いわ」
リーダーと参謀格の少女二人の短い会話。それだけで既に全員の腹は決まった。

敵の動きは速い。回り込んで体勢を建て直してから斬り込もうにも、もし退き際に
追撃を受けたらどうする。
追い付かれるのは目に見えている。防戦一方になってしまえば全てが後手後手に
回り、相手の攻撃を避けるのが精一杯で、そこから攻撃体勢に移って斬り込んだ
としても既にその時には相当の弾薬とエネルギーを消費してしまっているだろう。
それが惜しい。もう後が無いのだ。
同じ攻撃を避けるのでも、突進しながら行なえば同じ時間を使って相手に
肉薄する事が出来る。攻撃のチャンスが産まれる。だからもう退けない。
ここから一歩も退けない。後は前に出るしか無いのだ。

少年少女達は、身を寄せ合って呼吸を整えた。

何だか隣合っている仲間から、接触している肌を通して熱い血潮が送り込まれて
来る様に感じた。一部の者には恐れや怯えが無い訳ではなかったが、それでも
仲間と密着している事で踏み留まり、頑張る気持ちを奮い起こす事が出来た。
恐怖は他の17人の仲間が吸収してくれた。
大丈夫だ。一緒にやれる。

キングゴウザウラーは剣を構え、じりじりと相手ににじり寄っていった。

その内部で、少年少女達は息を詰める。
全員の呼吸がやがて一つに重なり、脈拍までもがピッタリと正確に、
同じ時を生きている生命のリズムを刻んでいる様に思えて来た。

しかし夢中な彼等には、知り得ない事があった。
じりじりと進むキングの足元で、斬り落とされたサラマンダの脚の一本が
複雑なパターンで発光し、次第にその輝きを増していくのを。
そう、それはやがてサラマンダの一部である事を止め、地球を道連れに
無に帰そうとしていた。

しかし少年達は知らない。彼等は夢中なだけだ。地球を親兄弟を、そして
今ここに居る仲間達を、共に助け合って救おうと必死になっているだけだ。

必死になっているだけだった。

「よォし…いいかぁ、突っ込むぞォ」
拳一が舌舐めすりをするかの様な声で呟いた。

全員が、了解の意味の息づかいを送って来た。
サラマンダまではダッシュ一発、疾走すれば何とか到達出来そうな距離だ。

「よぉォし…………行けぇェッッッツ!!!」

キングゴウザウラーが大地を蹴った。もう止められない。
RPGで言うならこれが最後の1ターンだ。少年達は誰もがそう直感した。

「おおおおおおおおお――――――――――――っっっッ!!」

拳一の絶叫。
サラマンダは後ずさりしながら猛然と光弾を放ってくる。
拳一は、キングゴウザウラーは、その中を光弾を目にも止まらぬ速さで
弾き返しながら突進した。

「スピードが足りねぇっ!逃げられるぞッ!」拳一の叫び。

相手は、懐に飛び込まれると不利だと判断した様だ。
キングゴウザウラーの走りと同じスピードで退きながら弾を射って来る。
このままでは追い付けない。

「浩美クンッ!」「わかった!」
しのぶが声をかけ、ナビゲーターの二人は阿吽の呼吸で操作を行なう。
スラスターをひときわ大きく噴射させると、キングゴウザウラーの巨体を
持ち上げる。
キングゴウザウラーは膝をやや折った格好で、地面スレスレを滑空する
様に突き進んだ。
これならば、光弾が命中しかかった時には反射的なキックで素早く身を
避ける事が出来る。
拳一得意の、スケボーに乗った様な体勢だ。
宙に浮いたキングゴウザウラーは全身の全てのバーニアをふかして
相手を逃がすまいと猛烈に加速する。
同時に、金太と洋二がありったけの火器類を一気呵成に叩き込む。
一見互角に見えるが相手は退いている。
腰の引けた者は、どうしても後手に回る。ここを攻めなきゃ駄目だ。
少年達は、一気にかたを付けてしまおうとキングゴウザウラーに拍車をかけた。

相手がたじろいでいる様に見える。今だ。

放って来る光弾の群れが、これまでは余裕を持ってこちらをいたぶるように
狙いをすませていたのだが、今では必死に、躍起になっている様に感じる。

その中を避けつつ、弾き返しつつ、キングゴウザウラーは肉薄した。
相手の姿が目前だ!

拳一が怪物の身体を間合いに捕らえる。脇を絞めたコンパクトなモーション。
攻撃をいつでも防御に置き換えられるフォームで彼は斬りかかった。

剣は今度は狙いたがわずサラマンダの胴体ど真ん中めがけて降り降ろされた。
やった!これなら命中する。

ガキィンッッツ!!

命中した。

だが違う。またしても致命傷では無い。

剣が怪物の脳天を唐竹割りにするまさにその瞬間、相手はくるりと身を返して
尻尾で剣を受け止めたのだ。
ガラスの様に砕けて、叩き落とされる尻尾。だが相手はまだ生きている。
余りにも素早い、尻尾という予期していなかった「奥の手」の閃きに、一瞬
拳一はたじろいだ。
そこへ。
拳一はその1秒の千分の一にも満たない僅かな瞬間、
顔の無い怪物が確かにニヤリと笑った様な気がした。

相手は ぶぉっと目の前のキングゴウザウラーに光弾の束を吐き付けて来た。

キングの全身に、まともに数発が着弾する!
拳一は顔面をカバーするのが精一杯だった。

凄まじい衝撃。
少年少女達は目の前のコンソールやパイプ、お互いの身体にしがみ付いた。

もんどり打って倒れるキングゴウザウラー。
時速数100kmのスピードで大地と接触する。いかに巨体のキングといえど
激流の中の木の葉の様に跳ね飛び、転がり、目茶苦茶に痛め付けられた。

光弾を受けて脆くなっていた部分がもげ落ちる。各部のパーツが脱落する。

少年と少女達は、牡蛎の様にコンソールにしがみ付いていた。
春江の頭が脳震盪を起こさない様に、洋二が抱きかかえる。
五郎の頬っぺたにエリーの膝蹴りが見舞われる。

再びキングゴウザウラーが体勢を建て直し、片膝を突いて起き上がった時には
形勢は絶望的なまでに不利になっていた。
自分の身体の具合を確かめるよりも早く、ザウラーズはキングの損傷チェックに
入った。
「両肩のバズーカがもげ落ちたぞォ!」
「メインジェネレータ出力ダウン。38%…37…出力低下中!
 サブの動力と緊急出力を使います! 最大出力…ご、52%!!」
「ランチャーがやられた。ミサイルの残弾数は2~30発しか無いぞ!」
「膝のアクチュエータ損傷。走行出力は20%未満!」
「脚部の被害がひどいです。スラスター調整中。待って下さい!」
今やキングゴウザウラーはボロボロだった。

「く、くそ……」
拳一は自分の未熟さに血の涙を流した。だがもう遅い。

怪物は数km離れた地点で、腕や尻尾の切り口から激しい火花を
発しつつも、勝ち誇った様な悠然とした態度で宙に舞っている。
まだ攻撃はして来ない。致命傷を与えた獲物に、どんなとどめを
刺してやろうか、どう料理してやろうかと考えている様子だった。

怪物は徐々に、じりじりとキングゴウザウラーに迫って来た。
それがある距離まで来ると、ふと立ち止まる。空中に静止する。

「…」拳一は歯を食いしばって、その様子を見つめた。

怪物は、もうこれ以上は近寄らないぜ…と言っている様だった。

お前達の間合いに入ると、意外に酷い目に合う事が判ったからな。
ならばもう、お前達に有利な条件を与えてやる必要もあるまい。
安全な距離から ゆっくりといたぶってやる。

全員が その声を聞いた気がした。

と思うやいなや、ブンッ!と音を立てて光弾が一発飛んで来る。
「うわッ!」
光弾は正確にキングの顔面を狙って来た。拳一が素早く弾き返す。

サラマンダは余裕しゃくしゃくの態度で同じ位置から動かない。
少年達は怪物の意志を理解した。
次はそこへ当てるぞ、と言っているのだ。

「ちくしょう……いい気になりやがってぇぇ…」
拳一が唸る。
拳一だけで無く、全員の目が座った。
もはや誰も何も言わないが、今や少年少女達の心は完全に一つだった。

キングゴウザウラーは ふらりと立ち上がる。
その足元に いたぶる様に続けざまに光弾が撃ち込まれる。
キングはたじろがない。
足元の大地がえぐり取られ、蒸発する岩板の爆発ガスがその身を包み、
輻射熱に脚の外装板が溶け出す。
それでもキングゴウザウラーはたじろがなかった。
ゆっくりと歩き出す、傷付いたその巨体。
一歩ずつ確実に相手との距離を詰めてゆく。
やがて走り出した。だが、ややびっこを引く ぎくしゃくした走り方だ。

その頃、コクピットでは少年達がキングを走らせるのに大わらわだった。
片足の膝の力が殆ど失われているので、バーニアをフル稼働させて足を
踏み出させる。同時に、逆方向の噴射で振り降ろす。振り降ろした足に
体重を乗せ、無傷の一方の足で距離を稼ぐ。さらに傷付いた足を踏み出す。

2人羽織、3人羽織的な必死の努力が傷だらけのキングを走らせていた。

しかし、単純なマシンであるサラマンダに情けという感情は無い。
その点が感情持ち合わせていた機械化帝国の四天王等とは違う所だ。
矢継ぎ早に光弾を撃ち込んで来る。しかも余裕を持ってじりじりと後退しながら。

周囲に着弾する衝撃と高熱に足元をすくわれながら、それでもキングは前進した。
敵は攻撃の手を休めない。
頬を殴りつける突風の様に無尽蔵の殺人兵器をこれでもかと繰り出して来る。

今や応戦火器も底を尽きかけている現状、拳一は追い詰められた獣の様に
無我夢中だった。しのぶ、浩美、洋二等のバックアップに走りの歩調を
合わせながらも、視界が真っ白になる程降り注がれる光弾の群れを
片っ端から弾き返す…という超人的な作業を行なっていた。
黙々と突き進む拳一。キングゴウザウラー。
だが走りでは駄目だ、追い付けない。スピードが足りない。
相手は馬鹿にする様なゆっくりとした速度で後退しながら、
それでも攻撃の手はここぞとばかりに激しく、残忍に放って来る。

「しのぶ!浩美君、飛び上がって!突っ込まなきゃ駄目よ!」
急かすエリー。
「で、出来ませェんッ!」
各部推進系のモニタをしていたクーコが絶望的な叫びを上げる。
「えッ!?」
「足の被害が大きいの。バーニアは何とかなるけどメインの推進が
 利きません。使えるのは背中と肩のエンジンだけよ!」
「それでもやるしか無いだろう。各部推進全力噴射!」
五郎の号令。
ごぅ、と猛然とした勢いで巨人の背部からブラストを噴き出る。
それはあたかも後光の様だった。
走りは加速された。
青白い、目も眩む炎を背負って突進する戦神。地球の最後の希望の砦だ。

しかしそれでも速度は足りない。

絶望的な戦力差。そして今や後が無い。このままの態勢で活路が開かれる
とも思えないが、しかし最早退く事も出来ない。
この戦いは攻撃も防御もスピードが勝負だ。
そのスピードが不利な今、退けば確実に追い付かれて葬られる。
ここで少しでも後手に回ってはいけない。隙は見せられない。

勝てる公算は確かにあったはずなのだが こうなってしまっては仕方が無い。

今は前へ出るんだ。やれるかやれないかは判らないが、もう他に手は無い。
迷っている暇があったら、その分少しでも前へ出るんだ。前へ!

前へ!

そんなキングをあざ笑うかの様に、集中攻撃が足元に叩き込まれた。
爆炎と閃光の中、大地が地滑りを起こして巨人の足元をすくう。
アッと思う間も無くバランスを失い、大地に沈むキングゴウザウラー。
まずい。止まってしまっては それこそいい的だ。
ここでやられる訳にはいかない。敵に近付かなくては駄目だ。動け。
動け!
ドンッ!と衝撃波を振り撒いて一気に加速する背部スラスター。
たちまち赤熱するエンジン。
動力担当者が真っ青になってコンソールに指を走らせる。
その輝くブラストは、まるで地上に太陽が現れた様だ。
純白の噴射ガスが入道雲を押し除けて数百mの高さにまで達する。

キングゴウザウラーは膝を突いたままの状態でずずずっと前へ出る。
だが駄目だ。推力が足りない。
無敵の巨体が、今は思うに任せない足枷となって少年達の意志を阻む。
片膝を突いて立ち上がろうとする拳一。
ブラストの咆哮。一瞬、ふわりと立ち上がりかけるキングゴウザウラー、
だがその腰を一発の白光が射抜いた。

ガシュッッッ!!

嫌な音を立てて、どこか大事なシステムが破壊される。
キングゴウザウラーは瞬間、激痛が走ったかの様に身体を突っ張らせ、
そして力尽きたかの様に崩折れた。ガックリと膝を突く。

ご免よ、ご免よ、キングゴウザウラー。

拳一はフルアクションで剣を振り回しながら、心で真っ赤な涙を流した。
俺のせいだ。ぜんぶ俺のせいだ。他の誰でも無い、俺の。

俺のこの心臓を今えぐり出して何とかなるのなら、生きたまま八つ裂きに
されたっていい。永劫に苦しむ地獄に堕ちる事で他の仲間を救えるなら、
喜んでそうするだろう。

だから、だから、だから!

頼む、動け、キングゴウザウラーッッ!!!

音を立てて飛んでくる銀の死神、その無数の流れの中で、寄り添う様に
少年少女達は生きて、抗っていた。
絶対に負ける訳にはいかない。負けたら大事な物を全て失ってしまう。
本当に、全てを。
だから来たのだ。勝つために来たのだ。だから負けない。決して負けない。
信じるんだ、諦めないで!
全員が、ぎゅぅっとその身を押し付けあった。

エンジン出力は、今やレッドゾーンの最深部にまで達していた。
大地を叩く巨人の炎の槌はドドドド…という地鳴りとなって、
遠く離れた町々の人々の耳に山脈が鳴動しているかに聞こえた。
山懐から巨大な白煙が立ち上がって行く。
知らない者には火山の噴火に思えただろう。

無敵の巨人の体躯が、今は傷だらけになってギシギシと軋む。
大地を割り、地球を突き動かすかの様な推進力も今となっては効かない。
腰から下は死んでしまった。
ブラストが必死に大地から足腰を引き抜こうとするが、死んだ巨人のパーツは
今や絶望的な質量を持った重しとなって飛び立とうとする上半身を引き戻す。
各部の関節が引き千切れそうにぎぃぎぃと鳴る。
瀕死の巨人はそれでも眼の輝きを失わず、津波の様なつぶての群れを
斬って返し続けた。

怪物が迫って来る。
深紅の顎を笑う様に歪ませ、楽しむ様に獲物ににじり寄って来る。
銀色の死の流れが、キングゴウザウラーの回りをなぎ払う。
まるでホースで水を浴びせる様な攻撃の渦。
大地が蒸発し、溶けて流れ出し、マグマとなってキングゴウザウラーは
その中へ徐々に埋没してゆく。
巨大な彗星もかくやというブラストの炎も、山々を包み隠す爆煙と
オレンジ色の爆光の閃きの中にややもすると見え隠れし始めた。

畜生、畜生、畜生!

負けないはずだ、絶対負けねぇ、負けねぇ、負けねぇ!!

拳一は信じた、信じまくった。
最後まで。
何故なら俺の後や横、身がピッタリと重なる位の所で息をしている17人の仲間。
こいつらが居るからだ。
皆んな信じて、俺の腕を信じて一緒に来てくれたんだ。信じてくれたんだ。

だからきっと、仮に俺がここで死んだら、俺の魂は永遠にここで剣を振り回し
続けるだろう。
俺は、許されちゃいけない。俺が休めるのは、勝った時だけだ。
あまりにも純粋なために、少年の心は「諦め」という慰めを知らなかった。

本当ならば、ここで弾を避け続ける俺だけを残して皆んな脱出して欲しい。
だが今やそれも出来ない。
好結果を産んだ18人ぎゅうぎゅう詰めのアイデアは、逆にいざとなった時
脱出しようを失うという意外な落とし穴を抱えていた。

拳一は無我の境地で弾を打ち返しつつも、17人の仲間の体温や鼓動が
伝わって来る様な、聞こえてくる様な気がしていた。
こいつら、暖ったかくって、息をしてる。微笑むと、微笑み返してくれる。
目の前には、しのぶのつむじがある。あ…可愛いな。
あんな奴に殺らせはしねぇ。絶対殺らせねぇ。
神様が「もういいよ」って許してくれたって、絶対に諦めるもんかッ!!

吼えるブラストは、巨人の死に物狂いの雄叫びに聞こえた。

その周りは今や閃く業火、生命を叩き潰し焼き尽くす激震、高熱の嵐。
地獄が天変地異に見舞われた様なもの凄さである。
閃く白光。
拳一は避け続けているが、それでも周囲の超高熱に外板がどろどろに溶け始める。
上半身を主に守っているので避け切れない弾が下半身に2発、3発、命中。
巨人の緑の瞳がチカチカと明滅し、光を失いかけた。

オレンジと真紅の炎が何もかもを覆い尽くし、飛んで来る光弾が見えない。

ガシィッッ!!

また、どこかに直撃だ。キングゴウザウラーの身体がメチャクチャになっていく。
もうダメなのか!?
本当にここまでなのか!!?
なんだか機械神の呪いの言葉と高笑いが聞こえて来る気がする。
あいつめ…最後にこんな仕返しの手を用意してやがって。

とうとうボディがガクガク震動を始めた。ヤバいな。
くそっ。
俺達、負けちまうのか。地球は、春風町は、あいつらにやられちまうのか。
そんなの嫌だ。絶対に嫌だ。

しのぶ! しのぶ! 俺が殺させやしねぇ、守るんだ!
父ちゃん!!母ちゃん!!

凄まじい直撃が来た。

吹っ飛ぶキングゴウザウラー。
粉砕され、微塵となって飛び散るボディ。
最大出力で噴射を続けるブラストが甲高い軋みを上げて、断末魔の叫びに聞こえる。
轟然たる白光、
何者の生存も許さない高熱と圧力の中に無敵だった巨人は崩れ、消えてゆく。

メチャクチャな震動に振り回され、18人は団子の様に身を寄せ合っていた。

…突如、ふわりと身体が浮く。
「!?」
加速感が襲って来る。炎が途切れる。視界が戻り、怪物の姿が現れる。
何だ!?浮いている!?
怪物の姿が見える。しかも、近付いている様に見える。
高熱が去った。しかもこの浮遊感と加速感。これは。

		   飛んでいるぞ!!

爆光と輝く炎の中から、キングゴウザウラーは姿を現した。

その姿には、下半身が無かった。

翼を広げ、地獄の炎の中から猛然と飛び立った
胴体から真っ二つに千切られたその姿は、

炎の中で自らの身を焼いて蘇る伝説の鳥そのままの姿だった。
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胸に最強の剣を構え、半人半鳥の様な姿になったそれは一直線に舞い上がる。
そもそも背中と肩のスラスターは無傷であった。
そこへ体重が半分になったのだから、文字通り自由を勝ち取った鳥の様に、
放たれた矢の様にそれは、
不死身のキングゴウザウラーは、
熱血最強の少年達を乗せて風の様に光の様に、高みへ高みへと加速した。

赤い敵の姿が迫る!

愕然とするサラマンダ。
泡を食って後退しつつ、やたらめっぽう光弾を振り撒いて来る。

拳一は、もう迷わなかった。余計な動きを止め、ピッタリとキングの顔前に
キングソードを構え、身じろぎしない。
しのぶと浩美がスロットルを全開にする。

防御を止めたキングゴウザウラーの身体を光弾がかすめる。翼の一部を叩き折る。
それでも拳一は身動きしない。
真っ正面に剣を構え、その瞳はジッと動かず、ただ一点を見つめている。
目標はただ一つだ。それ以外は見ない。
お前だ、サラマンダ。今そこまで行ってやる。

怪物は慌てた。仕留めたと思った相手が蘇って予期せぬ速度で突っ込んで来る。
しかも速い!これまでに見たスピードの、倍は速い!
怪物は恐怖に駆られた。追い詰められる物の必死の抗い。光弾の雨は滝の様だ。

キングの左肩に直撃!さらにもう一発、同じヵ所に直撃!

「肩関節脱落!左腕がもげ落ちましたっ!」
「右腕が動けばいい!」
意にも介さず加速し、翼を閉じぎみに弾丸の様に疾駆するキングゴウザウラー。

拳一はキングゴウザウラーを捨てた。仲間を取った。

信じてくれた仲間の生命を。

赤い怪物の姿が視界いっぱいに迫る。
最後のあがき。激しい光弾の嵐が猛然と吹き付けられ、キングゴウザウラーの
残りの部分をもぎ取ってゆく。
胸を吹っ飛ばされ、ボロボロの翼以外は頭と右腕だけになったキングゴウザウラーは
それでも地球を守ろうとする少年達の心を一時も疑わないかの様に相手に肉薄する。

その眼は、口元は、自信満々に微笑んでいるかに見えた。

最後の瞬間、怪物は愕然とした。
こいつらは危険だ。機械化帝国にとって最大の敵だ。宇宙最強だ!!

怪物はモードチェンジした。

無敵の剣がシステムを断ち割り、身体が真っ二つにされて粉々になる
数百分の1秒手前で怪物は自爆するのを止め、そのエネルギーを
全宇宙へ向けての警告メッセージを発する「悲鳴モード」に切り替えた。


金色のソードが真っ赤なクリスタルを木っ端微塵に打ち砕く!!!


怪物の姿は四散し、その中を突き抜けてキングゴウザウラーは…
キングゴウザウラーだったものの名残は天高くどこまでも飛翔した。

青空の高みへと。
				*

「…やったのか…?」
拳一が信じられないと言った風に振り返る。
と、エリーの歓喜に包まれた金切り声が張り上がる。
「やったのよ!あたし達、勝ったのよ!本当に勝ったのよ!」
全員が確認しようと後方を振り返った。

と、その時、それは起こった。

粉々になって落下して行く怪物だった物の一部一部が緑色に輝き、
膨れ上がり、実体がその中に溶け込む様に見え無くなるととそこから
ゾン!と腹に響く大音響を上げて垂直に立ち昇る光の柱が現れた。

金属的な緑に、中心部はまばゆいレモンイエローに輝くそれは
大きな破片、小さな破片毎に数本見受けられたがそれ等がやがて
統合され直径数km程もある巨大な輝く柱となって天高くそそり立った。
どうやらレーザーらしい。しかし、恐ろしく高出力のレーザーだ。
衝撃波が襲って来た。
空気の衝撃はキングゴウザウラー…だったもの…に追い付き、機体を揺らすと
波の様に去ってゆく。
眼も眩む その輝き。
本来一方向に進むべきレーザー光は大気中でのみ大気分子により光って見える。
だがこの異常な輝き方は尋常じゃない、人類が未だ知る事の無い規模の
エネルギーだ…と教授は皆んなに説明した。
数キロ離れた位置からでも、大気を震わせるブウゥゥゥン…というハム音が
耳に入る。周りの大気がプラズマ化しているらしく、激しい放電が周囲に走り
山々の頂きに向かって落雷していた。

「サラマンダが……昇天していく………」

拳一は呆然と呟いた。「昇天」などと言う言葉がぴったり来る程に、その正体の
禍々しさに関わらずサラマンダは最後まで美しさを残して去っていった。

しかしその美しさも人類に取って計り知れない毒となる物ではあったが…。
機械化帝国の総攻撃を呼び寄せるサラマンダの緊急警報は全宇宙中に轟く
エネルギーを秘めて、取返しようも無く飛び立ってしまった。

				*

月軌道、地球が満月の4倍程の大きさに見える宇宙の深淵。

サラマンダが残した断末魔が通信エネルギーとなって細い糸の様に伸びて来る。
と、空間に突如として光り輝く球体が現れた。
球体は通信ビームの進行方向に立ち塞がると、瞬く間に形態を変えた。
青白く輝く人間の様な影。
それは両手を差し上げると、力を込めて通信ビームを受け止める。
大気があれば耳をつんざく様な大音響と突風が伝わって来たであろう、
真空の宇宙ではビームは音も無く反射されて方向を変える。

ビームは銀河系の平面から垂直方向、一片の星すら無い、受け止める者の影すら
見当たらない真っ暗な虚無の空間に向けて目的を失った旅に立っていった。

				*

「降りられそうか!? しのぶ、浩美!?」
緊迫した声で五郎が尋ねる。
浩美としのぶは必死にスティックを操り、キングゴウザウラーだったものの
右肩口に僅かに残ったスラスターとバーニアを使い、次第に増す落下速度を
殺そうと躍起になっていた。
「無理だ……無理だよ。墜ちる…せめて真っすぐ落ちるのを食い止めて、
 なるだけ地面と平行に…胴体着陸出来る様にやってみる……」
しのぶも緊張した声で呟いた。
「そうね。このまま大きく旋回させて、さっきサラマンダとの格闘で平地に
 ならされちゃった所に滑り込ませましょ。この辺では平らな所といったら
 あそこしか無いわ」
「判った」
男女のナビゲーターは相談を終えると、また無言の格闘に戻った。
教授が叫ぶ。
「皆さん、注意して下さい!ジェネレータがありませんしシステムも破壊
 されているので、Gキャンセラーも慣性中和機も使えません!着地の際に
 物凄い衝撃が来ますよ!全員ベルトを絞め直して身体を丸めて下さいッ!」
そう言い終えると、素早く丸くなる教授と秀三。
やれやれ、最悪の相手を倒したと思ったら今度は墜落か…
俺達ってホントに苦労の連続だなぁ…だったなぁ…と思いながら
拳一はしのぶや浩美の後方、洋二のコンソールにベルトで自分をくくり付けた。
「しのぶ、まかせたぜ」
…と微笑んで「お手上げ」のポーズで両手を上げる拳一。
俺のやる事は終わった、今度はお前の腕を信じてるぜ、といった潔さだった。
しのぶがチラと振り返り、緊張した面持ちながらも微笑む。
小学生ではあったがこれだけの経験をして来た代償だろう。
拳一には微かに男の匂いが漂い始めていたし、
二人の間には今、はっきりと男女の気持ちの流れがあった。
一番後ろの隅から育代が叫んだ。
「皆んなぁっ!落っこちる時はあたし達の身体をクッションにしていいからねぇ!」
「う、うん…」
口をモゴモゴさせながら頷くマー坊。彼はチョコバーの残りを頬張っていた。
「お前…度胸あるなぁ…」
ボンがあきれた様に言う。
「エヘ…食べおさめ…」
ちょっと残念そうに微笑むマー坊。
ボンは、こいつひょっとしたら凄げぇ大物になるかも知れないな…と思った。
生命があったら。
「浩美クン…」
「ん…」
クーコの呼びかけに浩美が使っていない方の片腕を伸ばして手をつなぐ。

「金太くぅん…」
「大丈夫だ、結花。大丈夫だよ」
不安そうな結花をなだめつつ、金太は仁王立ちになって迫りつつある山々を
睨み付けた。
キングゴウザウラーとサラマンダの激闘でメチャメチャにほじくり返され、
耕された格好の黒焦げの大地が、ちょうど滑走路の様に視界に迫って来る。
結花は小さく身を丸めて、金太の戦闘服の袖の端をキュッ…と掴んだ。

しのぶと浩美の操作は的確だったが、みるみる内に近付いて来る地面の
流れるスピードを見ると機体の速度は時速500km程度はありそうだ。
春江が震え上がって洋二の首に齧り付いた。
ブーブー言うワン、ツー。
それを見てチョビはボンに呟く。
「なぁ…俺達って、結局ちっともいいとこ無かったなぁ」
「ホントホント」

それまでは上から眺めていた地面が、ぐんぐん平行に近くなって来る。
目の前に迫り来る黒焦げの大地。
「皆さん、生命があったらまたお会いしましょうーっ!!」
教授の声。
エリーは緊張の余り、足で五郎の首を思い切りギュウギュウ絞め上げていた。
「エ…エリ…くッ苦し…」
顔を真っ赤にしたり真っ青にしたりしている五郎。

余りにも流れが速くて、灰色になった地面がすぐそこだ。
しのぶはやるだけの事をやり終えると、拳一に向かって手を伸ばした。

「拳一、手を!」

それがしのぶの最後の言葉だった。


まだ焼け焦げてジリジリいっている山中の黒い大地、見渡す限りの死の荒野だ。
その中央にパッと巨大な爆煙の花が開く。

ナパーム弾の着弾の様に煙は一方向に疾駆り、飛び散る。
間に間に黄色い炎も見える。何かが砕け、飛散していた。

やがて大音響が伝わって来る。大地を裂く様な爆発音と地響き。

翼が、腕らしき物が粉々に吹き飛び、中にはかつての最強の巨人の
頭らしき物も含まれていた。

キングゴウザウラーは死んだ。