#148 Article 25569 Posted at 1997/03/08 04:58:52 by δ-WAVE (MAP5804) [STORY]

Subject: Re: 凍える夜の炉辺語り /25568

「あたしさぁ、妹がいたのよ。…やん太の下に」
  「それがどう蘇生薬(エリクサー)に関係…居『た』?」
  「『ゆっこ』って名前で、あたしに似て色白でさぁ…一歳と8カ月だったわ。丁度
 言葉を覚えはじめた頃に、今年みたいな熱病で…ね。覚えてるでしょ?あたし達が
 8つの時の…」
  「噂では大魔王がバラ蒔いたっていう…今となっては確かめようもないですけど」
  「お爺ちゃんとお父さんは、ワクチン担いで走り回ってほとんど留守。お母さんも
 倒れちゃって…あたしが家事一切の切りもりしてて…はっと気付くと、ゆっこが真
 っ赤な顔してうずくまってるじゃない。2日間熱で寝込んで…お爺ちゃんが帰って
 来てワクチンと抗生物質打ったけど手遅れだったわ。…あたしあの子の手をずっと
 握ってて…それがだんだん冷たくなってくのよ…怖かったわ。『死ぬ』っていうの
 はこういう事なのか、って…」
  「…じゃぁ…ぼくに使った蘇生薬は、妹さんの命で作っ…」
  やっこちゃん、寂しそうな笑みを浮かべて頭を横に振ります。
  「話はまだ長いのよ…。お葬式はお父さんが帰って来てからって訳で、2日間地下室
 に安置される事になったの。あたし何度も覗きに行って…ゆっこが生き返ってるん
 じゃないかって思って…みたんだけど…ダメだったわ。その時にね…見つけたのよ
 …蘇生薬(エリクサー)の製法を書いた秘伝書を」
  ここでしばらく、やっこちゃんの語りは途切れました。しいねちゃんは続きを促す
 こともなく待ち続けます。話の途中で既にうつらうつらし始めていたチャチャが、
 ベッドにうつぶせになって完全に寝入っているのを確かめる様に、やっこちゃんは
 製造法の核心に触れる部分を話し始めます。

  「驚いたわ…"有るらしい"っていうのは単なる流言、限りある命しか持たない人間
 の願望が作り出した幻想だって聞かされ続けてきたもんだから…それをまさかウチ
 みたいな小さな所が作っていたとはね。原材料の所を見て…心臓が凍り付いたわ。
 …『命』よ!信じられる!?集め方まで書いてあるのよ!」
  「そんなもの…どうやって集めるんですか!?」
  「そこは言えないわ…一つだけ言っとくと…火付け盗賊を始めとする、"お墓も作っ
 てもらえない罪人"にだけはならない方が身の為よ。お城の地下牢に送られたっきり
 出て来ないのはそういう訳なんだから。
  さて…『命』以外の材料は全部家に有ったわ…困った事に。おまけにその頃既に、
 あたしは薬の調合を手伝わされてたから…なまじっか自信が付いちゃったりしてた
 わけよ。で…集めたわ…『命』を…!」
  やっこちゃんは一旦言葉を止め、窓の外が気になるふりをしてしいねちゃんから
 顔をそむけます。表情が見えないように。
  「ふふっ…簡単に死ぬモンね…こう、首を持って『こきっ』って。犬と猫と鼠と鳥と
 でひと山積み上がったっけ…。それで…出来上がった"蘇生薬"を、書かれている通り
 の呪文を唱えながら、ゆっこに振りかけてみたわ…」
  「…でも…生き返らなかったんですね」
  「いいえ!……そうね、とてもじゃないけど生き返ったとは言えないわね…。ゆっこ
 の姿をして息をふき返したそれは…闇の眷族だったわ。
  起き上がったあの子をね…抱き締めてあげたの。『にこ~っ▼』ってあたしに笑い
 かけて、こっちに手を伸ばすもんだから、つい嬉しくなっちゃって…。感動したわ…
 自分の力で人が生き返って、それが可愛いい妹だったりした日にゃ…。
  耳のすぐ後ろで『がりっ』って音がしたわ。信じられなかった。痛みが襲って来た
 のはたっぷり5,6秒は経った後だったっけ」
  「…グレイ…フッド…」
  「やっとの思いでそいつを突き飛ばしたけど…全身から力が抜けてて立てなくなっ
 てたわ。このまま生命素を吸い尽くされるかと覚悟決めてたら、そいつあたしの横を
 素通りして階段上がって行っちゃったの。助かったと思って…でもすぐ間違いだと
 判ったわ。上からやん太の悲鳴が聞こえたの」
  既にしいねちゃんにも判るほど声が震えているやっこちゃん、涙声にだけはなるま
 いと、唾をごくりと呑み込みます。
  「何であんな力が出せたのか、どうやって階段上がってやん太の部屋に行ったのか、
 記憶がトンじゃってて思い出せないんだけど…ゆっこの胸に銀のナイフを突き立て
 た所からは覚えてるわ。やん太はあたしのマントの中でぶるぶる震えてて、冷たい血
 が手に伝ってきて…そうよ…あたしが殺したの!!……あたしが…罪を全部背負わ
 なくちゃいけなかったの…」
  一番鶏が遠くで鳴きました。まだ外は真っ暗ですが、いつの間にか夜明けが近づい
 ていた様です。

  「後で古代文字が読めるようになってから知ったんだけど…秘伝書にはね…必ず生
 への執着を失った人間の魂を使い、入念に浄化して、純粋な生命エネルギー体にして
 から製造にかかるようにと書いてあったの。智恵無き者には読めない文字を使って、
 濫用を防ごうとしていたのね。あたしはまんまと罠に引っ掛かって…あんな"怒りと
 痛みと恨み"だらけの魂をゆっこに……………………………………。
  そん時なのよ。どうしてあたしは…生命を直に扱う魔法使いは…黒い頭巾をかぶら
 なきゃいけないのか判ったのは。翌朝、お父さんが帰ってきて思いっきりぶたれた事
 より、その方が悲しかったわ」
  「…それで…お鈴ちゃんには優しいんですね。死んだ妹さんの替わりに…」
  「違うわ!!…贖罪よ。それも自分自身に対する…。その程度の女よ、あたしは。勝手
 に聖化しないで…」
  「やっこちゃん…やっこちゃん大変!お鈴ちゃん冷たくなってる!!」
  いつの間にか心の奥底から叫んでいたやっこちゃんの声に、チャチャは浅い眠りか
 ら目を覚まし…寝ぼけ声がいきなり悲鳴に変わります。頬を濡らしている涙の跡を
 隠すのも忘れ、やっこちゃんベッドの脇にすっ飛んで来て、ペンライトで瞳孔反射を
 見ます。
  「…ふぅ…チャチャ、あんたねぇ、これは冷たくなってるんじゃなくて平熱なの!
 …ったく人騒がせなんだから。まぁ、とりあえずもうこれで差し迫った危険は無く
 なったわ。そんじゃ、あたし一眠りするから後はよろしくね。お鈴ちゃんが起きたら
 そこのレモン水でも飲ませといて。汗かいて脱水してる筈だから」
  言うが速いかお鈴ちゃんの隣のベッドにもぐり込むやっこちゃん、泣いてた証拠
 を見られて相当ばつが悪かったせいか、みんなに背中を向けて横になります。少し
 の間、肩と呼吸を震わせて鼻をすすり上げていましたが、やがてそれは静かな寝息
 へと変わって行きました。
  「…しいねちゃん、やっこちゃん泣いてたよ…。あたしが寝てるあいだ、なに話して
 たの?蘇生薬の話じゃなかったの?」
  しいねちゃん、慎重に言葉を吟味し、そしてこう答えます。
  「妹さんが…死んだ時の事を…。つらい思い出だったみたいです…」

  (今でも時々…不安になるのよ…。あの時作った蘇生薬の浄化は完全だったかしら
 …本当にあの人達は、輪廻転生の輪から外れて他人の糧になる事に同意したのかし
 ら…って。こんな仕事、あたしの子供にもやらせなきゃいけないのかしら…。
  助けて、セラヴィ様…こんなあたしを知っても嫌いにならないで…あたしから黒頭
 巾を取り去ってくれるのは、あなたしかいないの…)


  「おっはよ~っ!お鈴ちゃん、元気になった?」
  「あ、マリンさん、お早うございますぅ」
  マリンちゃんが戸を開けると、登ったばかりの朝日が保健室の中まで差し込んで
 来ました。廊下の冷気が入って来る前に、マリンちゃん後ろ手に戸を閉め、大急ぎで
 ストーブに駆け寄ってミトン付きの手のひらをかざします。
  少し前から起きていたお鈴ちゃん、ベッドの上に正座して挨拶を返します。…実は
 マリンちゃんが保健室に近づく気配がするまで、しいねちゃんの寝顔に見入ってい
 たのですが(^^)。
  「何なのよ、この子達。まるで冷凍マグロね。ぴくりともしない」
  「みなさん、一晩中私を看病してくれたみたいですね。おかげで大分よくなりました」
  「あ、ホントだ。平熱。それで、っと…あんた、着替え持ってる?」
  きょとんとした顔で、お鈴ちゃん顔を横に振ります。
  「良かった、無駄足にならなくて。あたしのお古なんだけどさ、どうせ汗かいてべと
 べとになってるだろうと思って…ハイこれ。下着とかも色々持って来たのよ。ナミに
 あげるつもりで取っておいた一番いい服なんだけど、あの娘が着られるようになる
 まで、って事で貸してあげるわ」
  「わぁ、ありがとうございますぅ!(*^^*)でも西洋式ってあまり着た事が…」
  「…しゃーない(^^;)着付けしたげるか。しいねちゃん…寝てるわよね?」
  「起きてきたらどうしましょう?」
  「そん時はそん時よ。下着姿くらい見せてあげれば?"女"を感じてくれるかもよ」
  「え~っ!?(;_;)」
  「ハイ、帯解くわよ~」
  「あ~れ~」ぐるぐるぐる

  MAP5804 ほのぼのでオチてしまった(^^;) DELTA_WAVE
P.S
  「それにしても、みんな全然起きて来ないわねぇ…『寝耳に水』って効くかしら?
 マリン・マリリン!」