#140 Article 1920 Posted at 1994/04/16 03:29:52 by ゆ~さく (MAP1754) [NOVEL]
Subject: Re:*23 小説『熱血最強ゴウザウラー』/"もう一つの最終回" /1919 ....... /1822 /1821
同じ頃、公園。 きぃ、きぃとブランコが揺れている。 「この公園でも昔よく遊んだのよねー。あたしってばちっちゃい頃から マイク持って、カラオケえりちゃんって近所の人気者だったんだから」 エリーが空に向かって足を蹴り上げ、ブランコを揺らしている。 洋二は隣のブランコに座り、エリーの話を聞くとも無しに聞いている。 夕焼け空に、包帯にくるまれた左手がかざされる。 「直るかなぁ、これ。ねぇ」 「うん…」 生返事の洋二。 「痕が残っちゃったらスターとしては致命的よねぇ。素肌を見せないアイドル なんて聞いた事無いわ。ま、そんな事より今はもっと重大な問題があるけど」 洋二は答えない。 真剣な顔をしたまま目を伏せ、何かを考えている。 「あ~あ…司令官なんて、なるもんじゃないなぁ。こんな時って損よね。 なった時はやったぁ、あたしが主役だわ、なんて思ったもんだけど…。 これじゃ逃げたくても逃げられやしない。ドツボにはまるってヤツだわ」 「うん…」 エリーはキッとなり、無口な洋二の横顔を不満げに睨むと言葉を続けた。 「洋二君、逃がさないからね。あんたは必ず来るのよ」 「えっ?」 洋二はびっくりしたように目を上げる。エリーは瞳に強い光を浮かべて そんな洋二の顔を睨み付けていた。洋二の顔からびっくりしたような 表情が消え、プライドを傷つけられたと思ったのか、頬に赤みがさす。 「あ、当たり前じゃないかッ!僕はグランザウラーのパイロットだぞッ! 僕が行かなけりゃ、キングゴウザウラーだって動かないんだ! それに僕はもう決して逃げないって誓ったんだから!」 「ふーん。それならいいけど」 再びエリーと洋二は、並んでブランコを揺らし続けた。 大きな夕陽が沈む。それをじっと見つめていたエリーは、何か喉の奥に迫って 来たらしく、それを払いのけるように、 「はぁあぁぁぁ~!アイドルになりたかったなぁっ!」 突如大声を上げた。 その語尾がかすかに涙声を帯びているのを洋二は聞いた。 「大丈夫。今からだって絶対なれるよエリーは。まだ12歳じゃないか」 それを聞くとエリーは目を輝かせて振り向き、奇妙に明るい声で聞いてきた。 「ね、ほんと!? それ、ほんと!? ウソじゃないでしょうねっ」 「ほんとさ」 「ほんとにほんと?」 「ほんとにほんと」 「もしウソだったらタバスコバケツ一杯飲むのよ」 「う…」 この二人では、どうやら追い詰められてもそれほどシリアスな局面には ならないようだ。二人は再び並んでブランコを漕ぎ出す。 洋二は沈みゆく夕陽を眺めながら、 「きっとなんとかなるさ。こんなに頼れる仲間がいっぱいいるんだから…」 根拠も何も無いが、不思議にそう信じられる気がしていた。 しかし、エリーの手の傷はどうなんだろう。ちゃんと直るのかな。 それが元で彼女の夢が壊れるなんて事にならなければよいが。 でも、考えるのも嫌だが、もし仮にそうなってしまったら その時自分はどうしてやればいいんだろう。どうすれば…。 洋二はブランコを漕ぎながら、おぼろげながらも その時は自分が何とかしなくちゃ、と感じていた。 時を同じくして、こちらは結花の家、子供部屋。 金太が枕元に座っている。 ピンクと黄色と水玉模様で飾られた部屋の中、キリンさんとゾウさんの柄を あしらった幼児用の小さな掛け布団。その側に正座の金太は小学生にしては 大きな体躯。まるで、おもちゃの国に迷い込んだプロレスラーの様に見える。 無口な金太は、なかなか自分からは話し出さない。 対する結花も、まだあの恐ろしいショックから立ち直っていないのか、 布団を頭まで被ったまま口を開こうとしない。 枕元のクマさん時計だけがかちこちと時を刻んでゆく。 「結花…」 金太がようやく重い口を開いた。 「そこでそうして、待っていてくれ。俺が必ず、お前をそんな目に合わせた 奴を片付けて帰ってくるからな。俺は…」 そこで彼はふと言葉を止め、そして一つ一つの言葉を噛み締めるように、 食いしばった歯の間から絞り出した。 「俺は、お前を守り切ってやれなくて、本当に、済まないと思っている…」 布団が僅かに動き、毛布と枕の間から小さな丸っこい目が覗く。 「安心して待っていてくれ。テレビででも俺たちの活躍を観ていてくれよな」 そう言って立ち上がる金太。結花が、その後ろから声をかける。 「金太くん…」 「ん…」 いつになく優しい声で答える金太。 結花を心配させまいとする、彼の最大限の思いやりだった。 「皆んな、行くの…?」 結花は相変わらず布団の中から目だけを覗かせて、そう聞いた。 「ん…俺はどうだか、知らない…」 振り返らないまま彼は答え、そしてこう付け加えた。 「結花は、何も心配しなくていいんだよ」 結花は布団の中から、部屋を出ていこうとする彼の大きな背中を見つめていた。 学校。 真っ赤な西日の照り付ける、保健室。 ベッドに横たわった教授は、疲れたような、どこか遠い目で夕陽を見ている。 「教授…」 教授は振り返る。枕元の丸椅子に座った秀三は、所在なげに目を逸しながら、 やがて決心したかのように向き直り、教授の目を真っすぐ見つめて言った。 「俺、これから徹夜してでも何かを開発する。まだそれが何かは判らないけど 必ず皆んなを守れるような、それで、その…」 ちょっと口ごもる秀三。 「何て言えばいいか良く判らないけど、必ず君が認めてくれるような物を… この戦いを確実に切り抜けられるような物を きっと作り出してみせるから」 教授は、ちょっと優しげな目でそんな彼を見つめていた。 「…必ずやり遂げて見せる」 最後に彼は生涯に一度というほどの真剣な顔で、そう付け加えた。 夕陽が沈む。 はるか遠くを郊外電車が駆け抜けてゆく警笛が、窓の隙間から伝わってきた。 教授は何故かクスリと小さく笑うと、 「あのね…」 「え、なに?」 「いま夕陽を見ながら考えていたんです。 それで、ちょっとしたアイデアが浮かびましてね…」 教授はムクリと、枕から半身を起こした。 その顔にいつしか、いつものいたずらっぽい笑みが戻る。 「キングゴウザウラーに、ちょっとした改造を加えなけりゃいけません。 この方法で勝てるのかどうか確証はありません、が、急場の打開策と してはそれなりに有効でしょう……秀三君」 「え?…なんだよ」 「徹夜の作業になります。秀三君の協力が必要なんです。やってくれますか」 「必要って……やるよ、俺は、どんな事でも!」 「そうですか」 教授はそこまで言うと、ベッドの上で大きくのびをして、フッと息をつくと よしッ!というように向き直った。背筋がシャンと、一直線になる。 「私だって、こんな事で負けるのは真っ平です!」 眼鏡の奥の瞳の中に頑固そうな、信念の強い、きらめく光が戻って来る。 秀三はジンとした。それでこそ教授だ、と彼は思った。 「それでですね、聞いて下さい。キングゴウザウラーの、ここをこうして…」 「え~ッ!?そんなことすんの!?」 夕陽に照り映えてオレンジ色に染まった保健室の中で、今、二人の天才児は 額を突き合わせて何やら相談を始めた。 同じく学校。 夕闇が忍び寄る校舎屋上に、拳一の手を引っ張ってしのぶが上がって来る。 「何だよ。話があるって」 しのぶは金網越しに春の夕焼けを見渡せる塀際に歩み寄り 産まれ育った街を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。 「あのね、拳一…出動の事だけど…」 「ん…」 「やっぱり、出動を無理強いは出来ないよ。今日まで一緒に戦って来た仲間 だけど、今回のは今迄とは違うもん」 「…」 拳一も、しのぶの隣に歩み寄り金網に手をかけ、彼女の顔を見ずに答える。 「…でも俺たちは、ザウラーズだ」 夕暮れの町並み。 賑やかな商店街の奥を、通勤電車の連なった明かりが流れていく。 駅から溢れ出てくる人々。固まって歩く女子学生。背広姿のサラリーマンが 目指す家庭には、可愛い我が子や妻が待っているのだろう。 商店街のさんざめく白熱電球の光が、賑やかな魚屋や八百屋の声をここまで 運んでくる気がする。 「今日まで、この世界を守っているっていう誇りだけでやって来たんだ。 ここまでやって来たんだ。途中でやめちゃいけないんだ。 最後まで守り通さなきゃ。途中で抜けたら、きっと後々後悔する。 少なくとも、俺ならする。自分が抜けた穴が元で負けたりしたら、 それこそ一生後悔する。大丈夫だ。必ず俺が一人残らず守ってやる」 口や頬が激しく痛むのであろう、 一つ一つの単語をゆっくりと、うなるように吐き出す拳一。 しのぶはそれを聞くと、 「あのね、拳一」 突然拳一の手を取った。 ちょっと驚いてしのぶの目を見る拳一。 なんだこいつ?もの凄く真剣な顔しやがって。しかし柔らかい手だなぁ。こんな 手からあんな必殺の面打ちが繰り出されるんだから、たまったもんじゃねぇな。 漠然とそんな事を思っている彼の瞳の中を覗き込むようにしながら、 しのぶは語り始めた。 「聞いて。…おばあちゃんに聞いた話なの。昔ね、日本は大きな戦争をしたの。 よその国を攻めて奪い取る、間違った戦争だったんだって。 それでね、最後はアメリカなんかの大きな国に袋だたきにされちゃって、 お年寄りから学生なんかの若い人まで、国を守るっていう言葉で無理矢理 皆んな戦いに行かなくちゃならなくなったんだって」 そこでしのぶはちょっと言葉を切り、握った拳一の手に目を落とし、再び続ける。 「将来に夢のあった若い人も、子供が産まれたばかりで奥さんを一人にして 行きたくなかった人も、行かない者は卑怯者だ、憶病者だって言われて 無理矢理行かされたんだって。その頃もう日本はボロボロで、そうやって 兵隊を集めなくちゃならなかったんだって」 拳一はちょっとびっくりしていた。話の内容もさることながら、 あのファンキーなおばあちゃんの口からそんなシビアな話が 語られるとは思えなかったからだ。 彼には、おばあちゃんがしのぶにそんな話をしている情景が想像できなかった。 しのぶの話はさらに続いた。 「その頃の日本の国は、利用したんだって。 今の私たちみたいに、誰かがやらなくちゃ、わたしがやらなくちゃ、 皆んなのためにやらなくちゃ、っていう気持ちを。誰かのために自分が 身を投げ出してなんとかするっていう気持ちを、間違った戦争のために 利用されて、それで皆んな戦地に行かされて死んじゃったんだって」 「…」 答えられないでいる拳一。 「だから…拳一…」 しのぶは顔を上げた。その目がかすかに潤んでいるのか、夕陽を浴びて光る。 「やっぱり言えないよ。無理強いは出来ないよ。こういうのって、 自分から、「私が行かなきゃ」って思った人だけが行くべきなんだよ。 …例えそれがあたしたち二人きりになったとしても」 「しのぶ…」 「あ・た・し・は」 そこで彼女は再び言葉を切り、くるりと拳一に背を向ける。 空を見上げるしのぶ。東側の空は既に藍色にたそがれて、 強く輝く星々が5つ6つ浮かび始めていた。 くるりと向き直るしのぶ。 その顔からはそれまでの優しい痛みを伴った訴えるような表情が失せ、 代わりに勝ち気な、攻撃的ないつもの彼女が戻っていた。 「あたしは、絶対に、負けるのは、いや!」 一言一言スタッカートを入れて言い放つしのぶ。 強烈な輝きがその瞳に宿る。向こうっ気の強そうな眉が吊り上がる。 そして、ニッコリと微笑んだ。 「だから、ね、拳一」 しのぶは再び彼の手を取った。しかし今度は、妙に優しく。 「あたしと行こ」 春風が二人を包んで吹き抜けた。夕陽が最後の輝きを残して沈んでゆく。 校舎には、保健室に明かりが灯っているだけで他に人影はない。 高台にあるここには、遠い列車の汽笛やバイパスのクラクションが かすかに伝わってくる程度。あるのはただ、優しい春風の音だけだった。 「しのぶ…おまえ…」 「大丈夫! あたしだったら、17人分の働きはしちゃうから」 エヘ…と微笑むしのぶ。 「最後まで、手伝ったげる」 拳一の胸の中に、突然、握られたしのぶの手の暖かさが飛び込んできた。 なんとも懐かしい、じんわりと胸が濡れる、泣き出したくなるような暖かさ。 心底有り難い、と彼は思った。 「判った………しのぶ」 彼はしのぶの手を握り返すと、ゆっくりと呟くように答えた。 「俺たち二人で、行こう」 「拳一ぃ!」 感極まったのか、しのぶは握りあった二人の拳を胸に引き寄せ、 そして少女は、ゆっくりと少年の両腕の中に倒れ込んできた。 一瞬ギョッとなって、少年は思わず半歩退く。 「?…」少女は少年の目の奥を覗き込んで、尋ねる。 それだけで少年の狼狽は消し飛んだ。彼は胸を張り、直立不動の姿勢を取る。 再び少女が彼の胸に身を沈めてきた時、少年はもう微動だにしなかった。 その時 彼の心は、激しい鼓動を感じながらも、感動や情動の昂まりよりむしろ 「なんだか映画のラブシーンみたいだな」…という非現実感を覚えていた。 でも女の子はきっと、こんな風にしたいんだ。 それでその時に男は、ピクリとも揺るいじゃいけないんだ。 それも、岩よりも重く、壁のようにガッシリ立ってなきゃいけないんだ。 まだ良く判らないけれど、きっとそうなんだ。 それは彼が産まれて初めて感じた、最初の「男」だったのだろう。 西の空に残った最後の明るさも次第に薄れ、夜の闇が辺りを支配しようと している時、少年と少女の影は一つになって いつまでも動かなかった。 -つづく-  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ どーです、最後までお読み戴いた方には、途中どうしてあそこまでシリアスに したかその訳がお判り戴けたでげしょ。 だはははははははははははははははは(^_^;)(照れ笑い) さて次回はいよいよクライマックス。たぶん最終回になります。 ひょっとしたらその後にエピローグを書くことになるかも知れないけど。 さて果たして教授が考えついた「打開案」とは何か!?(笑) かなり激しい戦闘になるけど、特攻ではありませんので。 ゆ~さく!