#140 Article 1918 Posted at 1994/04/16 03:26:10 by ゆ~さく (MAP1754) [NOVEL]
Subject: Re:*21 小説『熱血最強ゴウザウラー』/"もう一つの最終回" /1917 ....... /1822 /1821
4 「あの怪物を、仮にサラマンダと名付けましょう」 放課後の春風小、6年2組の教室。僅かな人数を除いたザウラーズの全員が ミーティングを行っていた。黒板を叩いて説明をしているのは、教授。 「古いぞ教授ぅ。サラマンダなんて古いゲームぅ」 「拳一君、真面目に聞いて下さい。サラマンダとは火竜の事です」 「ちぇッ。なにがサラマンダだ、かっこいい名前付けやがって。 かっこいいのは俺たちザウラーズのメカだけで充分だぜ」 「黙って聞けよ拳一!」 たしなめる五郎。 怪物の襲って来た日は、それより2日前にさかのぼる。 傷を負ったキングゴウザウラーの帰還と同時に、彼等は慌てふためく大人達の 手によって春風病院に運び込まれ、徹底した精密検査を受けさせられた。 その結果、数人がこうむった手ひどい火傷の他には幸いにも健康への影響は 無い事が確認されたのだが。 しかし結花は精神的ショックがひどく、ツーは被弾の際に頭を打っているので 自宅療養する事になり、2日たった今も学校を休んでいる。 中島担任がそんな彼女の見舞いと親達への事態の説明を兼ねて出かけていた。 中島はこんな言葉を残して、学校を出ていった。 「いいか、先生はすぐ戻って来るからな。もし万が一機械化帝国が出ても、 先生が戻るまでは決して出動するんじゃないぞ! これは約束だぞ!」 一部の女子生徒は敗戦のショックが大きく、放課後にミーティングを開く旨を 伝えても「今は戦いの話はしたくない、家へ帰りたい」と訴えたりもした。 だがザウラーズのヘッドたちは、そんな彼女らも無理に教室に残らせた。 ここでバラバラになってしまうと、張り詰めて、踏ん張っていた気力が 萎えてしまうような、もう家から一歩も出たくなくなるような気がする。 彼らは一様にそう感じていた。 だからこそ、身を寄せ合って相談し、気持ちを一つにしておきたかったのだ。 「…それでどうなの教授? あいつをやっつけられる手段はありそう?」 普段なら大人も圧倒される元気少女エリーにも、今日は声に張りが無い。 肩から手首まで包帯で巻かれ、三角巾で吊った左手が痛々しい。 それは火ぶくれを伴った、重度の火傷だった。 しかし皮膚移植をする程ではない。手術抜きの治療でも完治できるだろう。 医者はそう判断した。 しかし他のザウラーズの全員は知らなかった、聞かされていなかった。 治療室で彼女…エリーが、 「手術をして欲しい、痕を残さないで欲しい」 と泣きながら必死に医者に懇願した事を。 エリーは ともすれば力が抜けてへたりこんでしまいそうになる 足腰を心の中で叱りつけ、無理に胸を張ってみせた。 「あいつが弾を撃っている時にはとても近寄れないけど、時々撃ってこなく なる時があったわ。そこを狙ってキングフィニッシュをかけられない?」 頑張らなきゃ。 今ここでわたしがへたっちゃったら、きっと皆んな挫けちゃう。 けなげな12歳の少女は足を広げて踏ん張り、拳をギュッと握り締めていた。 いや、しかし。 子供らしい怯えを無理にねじ伏せて、見たくない現実を見ようとしていたのは 彼女だけではない。 彼ら全員が、多かれ少なかれ同じ思いを抱いていた。。 ほんとは逃げ出したい、他の学級の仲間と同じように平和に遊んでいたい。 心の中のいずこかに潜むそれを、言い出す事も出来ないプレッシャー。 これまでの経験を上回る脅威と対峙した彼らの気力はギリギリの所まで来ていた。 「無理です」 教授が、そんな彼らの心を知ってか知らずか、冷たく言い放つ。 科学は非情、が彼女の口癖だ。 しかしそんな彼女も頭や手首など、数ヶ所を包帯で巻いている。 教授が端末のキーボードを叩くと、液晶スクリーンにゴウザウラーのメイン コンピュータが記憶していた敵の映像がコマ送りで、高速サーチで写し出された。 「サラマンダの光弾の発射タイミングに不自然な切れ目は見受けられません。 時々弾を吐いてこなくなったのは、給弾システムや発射システムの問題と 言うよりも、我々の動きを観察していた、と見る方が正しそうですね。 ほら、サラマンダの攻撃が止むのは、私達が合体などの新たな動きを見せた 場合やむこうが変形する時に限っています」 「あらそう…」 ブスッとして黙ってしまうエリー。 「弾の数も、尽きることは無いと思うよ」 秀三が追い討ちをかける。彼の身体にもそこここに包帯が見られる。 完全に無傷だったのは金太を除くパイロットと、右肩の第一動力室にいた ボンと大山育代くらいか。 「巨大な海王星の質量の全てが仮にヤツを構成するのに使われているとしたら 地球の10個や20個は吹っ飛ばせるエネルギー持っているって言ったろ? きっとヤツの身体は物質ではなく、海王星を丸々転化したエネルギーを何ら かの形で封じ込めた物で出来ているんだと思うよ。結晶化した光、とか…」 「秀三君の考えはSF的ですね」 「俺は科学者じゃなくて技術屋だからな。でもそう考えるのが一番妥当だろ?」 「弾が尽きるまで撃たせてみる、なんて作戦も今回は危険すぎますしね…」 またしても始まる秀三と教授の夫婦科学討論を聞きながら、 全員の心は八方塞がりの現実に沈みがちになる。 「で、でもさ、キングソードで傷を付けられる事は判ったんだろ? 作戦さえ整えば僕たちの戦力でもなんとか出来るんじゃないか?」 暗いムードを吹き消そうとするかのように、 洋二がわざと声を張り上げた。 「そうだ、そういやなんでキングソードは、あの光弾にも平気だったんだ?」 五郎がハッとして、その後を続ける。 「それはですね」 黒板にキングゴウザウラーの絵を描き始める教授。 彼女は絵の才能の方もなかなかのものだ。 描かれた絵はキングのジェネレータから手に持ったソードにエネルギーが 流入している図、といったもの。 「キングソードはフィニッシュの際にキングゴウザウラーのパワーを全て 使って薄膜のようなフィールドを張るんです。バリアのような物ですね。 このフィールドは絶対に破れません。その結果、ソードはこの世で一番 固い、無敵の剣になる訳です。このフィールドを形成するには巨大な キングゴウザウラーのパワーのほとんどを使います。だから滅多やたらに ザウラーキングフィニッシュを使うことは出来ない訳です。この原理は、 他の人型ザウラーメカの使うソードも一緒ですね」 「それじゃあ、なんで俺のザウラーソードは折れちまったんだよ」 不満そうな拳一。 しかし、 「エネルギーが足りなくて相手の強大な熱に過負荷になったからでしょ」 と教授に軽くいなされ、ガクッと肩を落とした。 「そうか!それよッ!!」 エリーが突然、会心の叫びをあげる。 全員が「なんだ!?」と、期待の目を向けた。 「前に教授が、ゴウザウラーをパワーアップするためにバリア装置を 作ろうとした事があったじゃない!? あの装置を改造して、その キングソードを包むっていうバリアをキングゴウザウラー全体に かけちゃったら、あの弾にも平気になるんじゃない!?」 全員がハッと目を見開いた。 「そうか!」 「なるほど!」 「その手があったんだ!」 実際は教授のバリア装置はひどい失敗作だったのだが、そんな事にかまって さえいられない今の彼らは、藁にもすがろうとするかのように目を輝かせた。 「それで行きましょうよ教授!」 「エリー、さすがは司令官ね!」 「えっへん!」 胸をそらして、鼻高々になるエリー。皆の心を明るくしようとする気持ちも あってか、少々オーバーアクションぎみでさえあったそのポーズが、教授の 次の一言で凍りつく。 「無理です。出来ません」 「えーっ!?」 「どうしてよう」 「エネルギーが足りません。申し上げたとおり、キングフィニッシュには キングゴウザウラーのほとんどのパワーを使うんです。ボディ全体を包む フィールドなんていったらガクエンガーのパワーを使ったって可能かどうか」 「そんなぁ…」 僅かに見えた光明をこともなげにうち捨てられて、ザワザワと不満げに 騒ぎ立てるザウラーズ。 そんな中、拳一が身を乗りだし虚勢を張った。 「へん! とにかくキングソードは無敵なんだ。今度出てきたら俺に任せ とけッて。スポーツ万能のこの俺が、あんな光なんか全部弾き飛ばして やる!大船に乗ったつもりで任せてくれればいいッてのよ!」 「果たしてそうでしょうか」 言いつつ教授は再び黒板に向き直り、描かれたキングゴウザウラーの絵に 何かを描き足していった。全員が何事かと思って注目する。 キングの身体、計4ヵ所にグリグリと描きこまれた赤い丸を指さす教授。 「第一動力室」 右肩の赤い丸。今回無傷だった育代とボンが乗り込む場所だ。 「指令室」 次に、胸の中央、一番大きな赤丸を指さす教授。 「第二動力室」 左肩の赤い丸。 「そして頭部コクピット。私達が乗り込む場所はこれだけあるのです。 この全てを確実に守りぬけますか? このうちたった一ヵ所をかすめた だけでも今回みたいな事態になるのですよ。拳一君の反射速度は 認めますが、4ヵ所を同時に守り抜けるような瞬時の的確な判断能力 があるとは私にはとても思えません」 「なにおぅ!」 怒る相手を間違えて興奮し立ち上がる拳一。単純な彼の頭でも、 今の教授の言葉が「運動神経はいいが頭が悪い」というニュアンスで ある事は言葉の響きで判った。 「けっ、悪うございましたね頭が足りなくて身体が軽くて。 それじゃ俺はサルかなんかかよ。こうなりゃいっちょ火の玉でもなんでも 食らわしてもらおうじゃねーか。どーせ おサルのお尻は真っ赤っかだから 火傷したってわからねー」 言いつつ、やけくそで椅子の上に飛び上がり教授に向かってお尻をパンパン 叩く拳一。それは彼なりの負けん気と、挫ける事への嫌悪と拒否を込めた ジェスチャーだったのだが、これには教授もムッとして何かを言いかけた。 しかし、それより先に委員長の五郎の声が飛ぶ。 「お前な、生命がかってるミーティングなんだからな!もっと真剣にやれよ!」 拳一をたしなめようと叱った五郎だが、不用意に発した「生命がかかっている」 …というその言葉に、全員が水を打ったようにシンとなってしまった。 五郎はしまったと思い、慌てて撤回しようとするが、もう遅い。 それは風も無くぽかぽかと温かい日和だった。 窓からは春の陽光が明るく差し込み、小鳥が楽しげに歌い、舞っていると いうのに この彼らの教室の中はまるで墓場の玄室のよう。 冷たい沈んだ空気に満たされた教室で、突きつけられた運命に苦しむ少年達。 「あたし達…もしかしたら、今度こそ、これっきりなのかしら…」 ポツリと呟いた春江の言葉が、沈黙にさらに輪をかける。 言われてみれば、今まで連戦連勝で勝ち進んで来れたのが不思議なような 気がしてくる。全員の頭の中に、今まで戦っては倒してきた強大な敵の イメージが次々と浮かんでは消えた。 歯車王…そして電気王…巨大なデスボルト。 エンジン王…そして彼とギルターボの協力を得て倒した月面の機械化城…。 原子王…それまでで最大のダメージを受けた恐るべき敵、ダークゴウザウラー。 そして機械神との、月面での最後の戦い。 苦しいこともあった。 それらを気合いと団結と、土壇場の生命力としか言いようの無い バイタリティーで乗り越えてきた彼らには、それなりの自信もあった。 しかし今回ばかりは、どうしたらいいのか判らない。 それまでの敵のような、突破口が見えない。 エルドランに頼りたい気もする。いや…それ以上に。 ワンは、家で寝ているツーの顔を思い出していた。 「じゃぁね、学校行ってくるね、ツー」 声をかけると、二人の子供部屋の布団の中で頷いた相棒ツーの、その瞳。 疲れきった目だった。 ワンはその顔を思いだし、そして発作的に叫び出しそうになるのを堪えていた。 「もう、やめようよ! 先生だってきっとそう言うわ。 あたし達ばっかりがこんな目にあうなんて、へんだよ! ゴウザウラーは防衛隊に渡して、後は任せればいいじゃない!」 今まさにそう言いたくなるのを必死で飲み込むワン。 エリーが挫けそうになる雰囲気をなんとかしようと、両手を広げる。 「だ、だめよ皆んな! あたし達はいつでも熱血最強だったじゃないっ! こんな事でくじけちゃだめよッ!」 言いつつ、教壇の教師用の椅子の上に駆け上がるエリー。 「ザウラーズは不滅よッ! あんな火がなにさ! 熱さがなによッ! 私達にはそれよりも熱い心があるでしょ! ねぇ、そうでしょ!」 説得力もなにもあったもんじゃないが、それなりに一生懸命なセリフだった。 言いながら、徐々に自分が一生懸命である事に酔い出すエリー。 彼女のお人柄である。 芝居がかった演技で、火傷の痛みも厭わずに鳥のように両手を羽ばたかせ、 ついに彼女は教卓の上にまで駆け上がる。 「真っ赤な炎に焼かれても、あたし達は不屈の闘志でもって何度でも蘇り、 あの大空に羽ばたくのよッ!…そう、あの伝説の不死鳥、フェニックス のようにッ!! あわっ」 最後のキメが決まらず、教卓の上でバランスを崩して転げ落ちそうになる。 慌てて数人が支えようとして駆け寄るが、その際に誰かが思わず彼女の左腕に 触れてしまった。 「あわッ! 痛い痛い、痛ひぃぃ~~」 なんとも情けない、泣き出しそうな声を上げるエリー。 「畜生ッ、俺は負けねぇぞッ!!」 やおら拳一が立ち上がり、訳も判らず叫び出す。 「負けねぇぞ!負けねぇったら、絶対に負けねぇぞッ!くわ~~~~~っ!」 四肢をムチャクチャに振り回してそう叫ぶと、突然教室から駆け出してゆく。 「チョビ、ボン、来いッ!」 「お、おいッ」 「ちょっと、待てよ!?」 「おいこら、まだミーティングは終わってないぞ! まてッたら、おいッ!」 静止する五郎だったが、火のついた拳一が止まる訳も無い。 ついでに、付いてゆくボンとチョビも止まらない。 「わ~~~ッ畜生、いつもいつも俺を無視しやがって! 俺は委員長だぞォ!」 五郎もムシャクシャしていたのか、ついにキレた。 「わ~っ、五郎がキレたっ!」 踊るように暴れ狂う五郎を遠巻きにする一同。 こうしてミーティングは、うやむやのうちに終わりとなった。 既に夕闇が迫り、校舎の灯も消えている。 しかしここ、体育館では明かりが煌々と照っていた。まばゆい水銀灯の光の下で 拳一が特訓をしているらしく、無我夢中でバットを振っている。 対する反対側でこれでもかこれでもかとソフトボールを投げつけているのは ボンとチョビ、そしてお付き合いのしのぶ。 拳一の体操着の胸と両肩には赤い丸が付いていた。 「あっ! 拳一、今右肩に当ったぞッ!」 「くそ~ッ、畜生~~ッ!」 「ほらッ胸! ほらッ、頭ぁ! ぜんっぜん受けられていないわよ、拳一ぃ!」 「わ~~~~ッ、なにくそぉ、俺は負けねぇ、負けねぇぞぉぉ!」 どうやら光弾を弾き返す練習らしい。 口ばかりは勢いがいいが、疲れとなかなか成果が上がらない苛立ちとで だんだんと拳一のフォームはメチャメチャになってくる。 タイミングも合っていない。 「だめだよ拳一…これじゃ上手く行かないよ。もっと別の方法で特訓しようよ」 諭すしのぶだったが、拳一は歯を剥きだし、息を荒げてかぶりを振る。 「まだまだぁ!まだまだだぁぁ!負けねぇ、負けねぇったら負けねぇ、 ふ~~~っふ~~~っ」 雨あられと降り注ぐソフトボールの球。拳一は呼吸を荒げ、汗で滑って倒れ、 起き上がり、ふらつき、膝をついた姿勢でそれでもバットを振り回す。 4人の声と練習の音は、その夜遅くまで続いていた。