#126 Article 18406 Posted at 1994/07/30 00:30:53 by 大地 (MAP4664) [HIME.TXT]
Subject: Novels "Himechan's Ribbon" 1-2
三月二日の夜が明けた。姫子はもう目を覚ましていた。時計を見ると5:30。い つもは早起きのポコ太も今朝はまだ起きていない。ポコ太を起こさないようにベッ ドから出て、窓を細く開けた。寒い風が吹き込んでくるので、姫子はまた窓を閉 めた。そして引き出しから、中にあと二粒残っているキャンディーの瓶を取り出 して見た。こんな時エリカならどうするのかな、と考えながら。 姫子は怖かった。だんだんと時間が迫ってくるのが怖かった。何もしないでい ることが出来ず、絶えず何かを出したりしまったりしていた。それにも絶えられ なくなった姫子は、目覚まし時計のスイッチを切って下に降りていった。 「あら、おはよう姫子。今日は早いじゃない。」 「おはよう・・・」 花子は、いつもは寝坊する姫子がこんなに早く起きてくるのに驚いたが、同時に 姫子の元気のなさに気付いた。花子はテーブルに座った姫子の真正面に座り、姫 子を見据えて言った。 「今日の結果が心配なんでしょう?」 姫子は無言で頷き、下を向いていた。花子は、「ふうっ」っと息を吐き、薄暗い 窓の外を眺めて言った。 「私、人生って無数の選択だと思う。どうしようかってさんざん迷ったあげくよ うやく決めることもあるし、勢いで決めてしまうこともある。でもね、どんな 場合にも言えるのが、過去がなかったら現在もないってことと、過去はどうやっ ても変えられないってことよ。何か目的があるのなら、それに向けて『やらな くちゃ』、って思うだろうし、『あのときああしてれば良かった』とあとで思っ ても遅いの。だから私はいつも思うわ。『今の決断をあとから振り返ったら、 必ず良かったと思える』って。あとから後悔してもしょうがないのと同じで、 ああしといて良かった、っていえるようにしたいの。姫子、あなたは12月末 から二ヶ月間、本当によくやってたと思うわ。あれだけやってたんだもの、大 丈夫!必ずいい結果が出るわ。そして、二ヶ月が無駄じゃなかったって思える はずよ。」 二ヶ月は本当に長かった。もう止めてしまいたかった。でも、それが出来たのは ・・・。やっぱり一つの目標があったから! 「うん、ありがとう、お母さん!」 姫子はやっといつもの笑顔に戻り、食事の準備を手伝い始めた。 姫子は風立中央高校に向けて歩いていた。 「姫ちゃん、おはよ!」 振り返ると愛美と一子が走ってくるのが見えた。 「おはよ!」 二人がくるのを待って言った。 「ねえ、みんな受かってるといいね。そしたらまた三人一緒にいけるのにね。」 「そうねー」 「ねっ、ねっ、あたしね、中央高校受かったらね、髪型ポニーテールにしようと 思うんだ。あそこの制服かわいいしねっ。」 姫子はくも助と三年後に行ったとき見た、ポニーテールのに会う愛美の姿を思い 出した。 「うん、きっとよく似合うと思うよ。」 「ありがと、姫ちゃん。」 「でもさ、愛美が一番気にしてるのは、高田君と一緒に行けるかどうかでしょ。」 愛美はポッと赤面した。 「・・・姫ちゃんの意地悪・・・」 「姫ちゃんだって小林君と一緒に行けるか心配なんでしょ?」 「も、もう・・・、いっちゃんたら・・・。」 そんな話をしながら中央高校の校門をくぐっていった。 三人が掲示板の前に着いたとき、9時5分前だった。とたんに三人は無口にな り、うつむいて9時の発表を待っていた。姫子は周りを見回してみたが、大地を 見つけることは出来なかった。手を胸に当ててみた。心臓が飛び出すんじゃない かと思うほどドキドキしていた。 ……… キーン、コーン、カーン、コーン ……… チャイムが9時を知らせていた。掲示板に番号の書いた紙が張り出された。 一瞬の沈黙のあと、 「あったー!」 と叫ぶ男子の声がした。しかし、緊張している姫子の耳にはその声は届いていな かった。深呼吸をして掲示板を見上げた。端から一列ずつ見ていった姫子の目が 三列目で止まった。姫子の番号「01146」があったように思えた。姫子は目 をこすってみた。もう一度三列目を上から順に見ていった。番号が違うんじゃな いかと思い、受験票を出して確かめてみた。やはり「01146」はそこにあっ た。 「あった!あったよ、あたしの番号!!」 姫子は二人の方を向いて言った。 「私もあった!」 「あたしも!!」 三人は手を取り合って喜んでいた。 「野々原、受かったんだってな。」 姫子は振り向き声をかけた大地を見た。 「大地!あたし、あたしね、受かったの!・・・ありがとう、大地のおかげだよ。 ……あっ、大地はどうだったの?」 大地はいつも通り微笑んで言った。 「俺が落ちるわけないだろ。もちろん受かったよ。」 それを聞いて姫子は大地の胸に飛び込んでいった。一子は二人をぼーっとして見 ている愛美に短く「行こう。」と言って二人から離れた。 「うれしい・・・、あたしうれしい・・・大地と同じ学校行けるなんて・・・」 大地はそんな姫子の髪を優しくなでながら言った。 「・・・姫子、・・・良かったな・・・」 空を見上げると、いつの間にか粉雪が舞い降り始めていた。 姫子にはそれがエリカからの贈り物のように思えた。 Fin.