#121 Article 514 Posted at 1993/02/24 09:55:05 by 結城たけと (MAP2864) [STORY]
Subject: 最終回の水曜日
それは、小さな映画館でした。
街の片隅にポツンと建てられているその映画館は、
百人ちょっとが座れるくらいの観客席と小さな舞台があり、
その舞台の奥の壁にあるスクリーンには、毎週水曜日だけ
映像が映し出されました。
1週間に1度、30分だけの上映会。
その作品の為だけの建物でありましたが、水曜日には
看板にネオンが灯され、スピーカーから軽快な音楽が流されていました。
開演前に、多くの子どもたち、会社帰りのビジネスピープル、
勤務途中に仕事を抜け出してきたガスステーションやコンビニの店員、
そして、僕のような予備校生など、いろいろな人たちがやってきました。
30分、「それ」に目を奪われた後、人々は興奮を残したままだったり、
色々考えさせられたり、元気づけられたり、その人なりの様々な感情を
抱きながら、自分達の社会の中へ戻って行きました。
映画館のそばの喫茶店は、映画帰りの人たちの談話室と化し、
「それ」について、たくさんの人たちが語っていました。
僕もいつからか、その会話の中に参加させてもらい、
自分とは違った社会の中に身をゆだねている人々の話を聞いたり、
その人たちに自分の考えを聞いてもらったり。
自分の回りが受験生という“ライバル”だらけの人混みの中から
抜け出せるのは、この時だけだったかも知れません。
そんな意味で、水曜日は「特別」な日。
その「水曜日」も、いよいよ今日で終わりです。
僕は、いつもよりずっと早く「ここ」にきて、
今までの事をずっと瞑想していました。
11カ月という長くも短くもない中途半端な期間でも、
「それ」から受けた影響は、あまりにも大きいものでした。
自分が「過去」という時代に、“その時しなければならない事”を
随分多く残してきてしまったような気がします。
[今ではなく、その時でしか出来ない事。たとえ些細な事でも、]
[今ではあまりにも大きすぎて、ずっと気付かなかった事。 ]
その作品の中の主人公たちは、自分の代わりにそういった事を
片づけてくれるような、そんな気がしていながら、いつも
30分、「それ」に見とれていました。
ふと目をあけると、もう映写室では「館長」がゆっくりと準備を
進めています。いつもの見慣れた人々も、そろそろやってきます。
いつもの談話グループの一人が、
「スケールは宇宙クラス、でも心のつながりは町内クラス(^^;)
世界の広さも町内クラス(^^;) 広すぎもせず狭すぎもしません。
知らない事よりも知っている事がほんの少し多いくらい。
こんな世界がぴったりのお話。」、と語ってくれました。
その世界の人たちは、最後にどんなラストをプレゼントとして
僕たちに送ってくれるのでしょうか。
「形」ではなく、「心」のプレゼントを。
いよいよ、スクリーンの前の幕が開きます。
皆さん、ハンカチのご用意を。
結城たけと (MAP2864)