#9 Article 1267 Posted at 1990/07/08 16:48:20 by ジキル (MAP086) [KAWAMOTO]

Subject: Re: Re: Re: 草月アニメーション・シアター’90のお知らせ /1265 /1264 /1253

僕も行きましたが、これで八月までの仕事の予定が詰まって、キビシイ事になりそ
うです。

 まず最初に、言わなければならない事があります。
今の日本では、文化を育てる環境でないような気がします。創ろううと思っても十年
近くかかり、発表するにも高いプログラム料を集めないとやれない環境です。これは
創作側も観賞する人達にも不孝な事だと思います。
余りにも、全てに対してお金がかかり過ぎる日本、一枚の絵画に何十億ものお金を注
ぎ込む人も居る日本ですが(個人の勝手、好きだとも言えますが・・・)、その割に
は、文化を育てて行く気持ちに希薄な日本だと思います。
どこから手を付けて変えて行けば良いのか・・・?。

 気分を変えて「草月アニメーション・シアター’90」です。

まず最初に残念なことを一つ、Bプロの『闇のまぼろし』が外されていました。
チェコは人形アニメーション全体リードし、チェコ独特の質の高い作品を作り続けて
きた。その中にあって、カレル・ゼーマン、イジィ・トルンカは、作品の雰囲気や方
法論の違いはあってもチェコを代表する存在で、今回プログラムから外された『闇の
まぼろし』のブジェチスラフ・ポヤールは、トルンカ亡きあと同じ雰囲気や方法論の
作品を作れる人です。
その意味では、川本喜八郎氏も同じ事が言えます。
それに前文に書いた、作品を作る環境の違いで、トルンカは社会主義の国、ポヤール
や川本喜八郎氏は、西側資本主義の国で制作資金調達の違いがあります。
(注:ポヤールの『闇のまぼろし』はカナダで制作:NFB=ナショナル・フィルムボード(国立)
)
そして今回、プログラムのメインとなる川本氏の『いばら姫またはねむり姫』と同様
に、女性をどのように表現するかで、作品の命に影響を与えるのでまた観たいと思っ
ていました。(残念!)

 作品の中の「女性について」が出ましたので、プログラムのメインの『いばら姫ま
たはねむり姫』の事ですが、元ネタがあるからオリジナル原作とは言えないが、女優
岸田今日子さんの作品(『いばら姫またはねむり姫』:大和書房刊「ひとみしりな入
江」ヨリ)の人形アニメーション化です。

 川本さんのトークの時に、岸田さんは「童話のあるシーンが、本当はもし・・・だ
ったら全く違った物語になって、面白い」と話していました。
単なる『眠り姫』の童話が、「姫の誕生祝いの日に、仙女が招かざる客としてではな
く、本当は、母である妃と昔関係のあった男性が来たら」
この一つの設定で、人形が持つ静的な独特な雰囲気に(男性には理解しにくい気であ
ると思いまが、解からない人は、身近な女性から、その思いを聞いて下さい。15歳
なら15年分の、20歳なら20年分の気持ちや考えを語ってくれます)、人間臭さ
が加わり、命のある設定が可能になり、人形アニメーションに向いた物語になったと
思います。
川本氏は、人形の持つ独特の雰囲気の中で、女性の表情、そして本来静かなはずの人
形に、外的な動きの激しさではなく、女性の内的な念の、情念や恩念で人形アニメー
ションを成立させること、これは川本氏が得意だし、好きな方向なのだと思います。
この設定がなければ、単なファンタジー作品として完成したはずです。(それだと作
ろうとは思わなかったと思いますが)
 
「演出の巧さ」と、一言でかたずけ事もできますが、人形アニメーションの味である、
人形の持つ独特の雰囲気、人形が作りだす空間の気の様な物を壊さずに、女性の内的
な念の高揚を成立させる難しさ。
独特の雰囲気とは、本来人形は動かない「静の極」から生まれるものだと、僕なりの
自己解釈しています。
動かさず静的状態を保ち、独特の雰囲気を壊さずに、女性の内的な念の高揚の表現、
これではアニメーションその物が成立しません。
その方法論として、トルンカや川本氏は、静的状態の独特の雰囲気を、アニメーショ
ンとしての成立を、極力動かさない演出でバランスを取りながら行なう。表情を積み
重ね、女性の内的な念の高揚とは反して動きの演出押さえています。
不安などの、気持ちの変化の表現も、動きの演出やナレーションに頼るのが楽ですが、
そこでも人形の動きは極力押さえて、独特の雰囲気を壊さずに勤めています。その反
面、人形の独特の雰囲気を取り囲む空間(背景等)は、風で木立が騒き、雨や雷光が
・・・。
全ての背景物の動きまでも制御する、人形アニメータ皆さんの技術の高さには、改め
て感心させられ、それに衣装や小道具など製作、上げたら良い所が多くさすがトルン
カスタジオと思いました。

 近年、バランスの優れた傑作だと思います。
ジキル氏推薦の必見の価値のある作品の一つです。
(一気に書いたので、乱筆はありませんが、乱文、論理の展開のおかしいところはコ
ンパイルして下さい。長文すみませんでした)

PS. 帰りに川本監督と二言三言話す機会がありましたので、オープニングタイト
のルマークが、あのトルンカスタジオの木馬の?フェニックスだったことを指摘する
と、目を細め嬉しそうに「あのマークの映画を監督としてトルンカスタジオで撮れる
とは・・・夢のようで」と、返事をもらいました。
岸田さんとのトークの時には、恥ずかしい気持ちが先立ってかふれてはいませんでし
たが、ルーカスマークの映画の監督を、ルーカススタジオで撮る事と同じか、それ以
上に人形アニメーション史には残る事です。
作品自体も、もうしぶんないできの良さですから。
あの時は、嬉しそうなお顔でした。

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