#8 Article 254 Posted at 1988/02/05 03:39:02 by MARUTATSU (MAP132) [MAROOM]
Subject: マル辰の部屋(NO.6)
6回目のマル辰の部屋は、源氏物語です。シナリオに見覚えのないシーンがあり、そ
れを確かめようと思っていたのですが、どうしても映画館へ行く都合がつきません。あ
まり話が古くならないうちにアップすることにします。120行以上ありますよ。
「源氏物語を卑俗に見る」
朝日新聞社が巨額の費用を投じて、「アニメ・源氏物語」を制作しました。何たって
平安文学ですから、ソノように見ればソノように見えてしまう・・・はずです。当時、
天皇を中心とする貴族社会での男女関係は、直接に政治にかかわる問題で、貴族社会を
題材とした物語では避けて通ることのできないものでした。ですから、とても期待して
いたのですが、どうやらみごとに裏切られたようです。
源氏物語五十四帖と一口にいいますが、英訳版で比較した場合、 世界で2番目に長い
小説なんだそうで、すべてを1時間半ほどのアニメにすることは不可能です。今回の作
品も「須磨・明石」の直前まで、さらにそれまで登場する6人の女性、藤壷、葵の上、
六条御息所、若紫、夕顔、朧月夜とのわずかなエピソードに話は絞られています。映像
美を賞賛することはたやすいことですが、若紫と六条御息所を除いた4人の見分けがつ
きません。声優の声と几帳(きちょう)や屏風(びょうぶ)に描かれた絵などの舞台装
置、そしてなにより原作の知識によって、かろうじて4人を区別することができます。
交錯する6人の女の情念は一つに紡がれることはなく、ほんの数行の台詞によって1本
のフィルムに押し込められてしまいます。
源氏 「確か夕顔の君のうなじには小さな黒子(ほくろ)が・・・いや、あれはほか
の人であったか・・・。」
惟光 「覚えきれないのでしょう。いろいろとおありになりすぎたから。」
源氏 「・・・。忘れるものか。いつだって私は本当だった。」
惟光 「本当が一つだけだと、面倒を生まずにすむのですが・・・。」
つまらなそうに書きましたけど、それなりに見られるところはあって、たとえば源氏が
突然に藤壷を訪れ一夜の契りを結ぶ場面での、逃げ惑う藤壷の着ている単(ひとえ)を
次々と剥ぎ取っていく手際は、まさかの時のために非常に参考になります(?)。折に
触れ女たちが詠む歌が艶やかで、思わず押し倒したくなるのですが、源氏は押し倒すか
わりに抱き締めてしまいます。このあたりはさすがプレイボーイです(私が下衆なだけ
かしら)。もっとも源氏が歌を詠む様は歯が浮いてしまい、滑稽以外の何者でもありま
せん。「歌」の文化を失った現代では、男女の間で確かなものは肌の温もりだけなので
しょうか。
映画の公開とともにシナリオが単行本として発売されています。映画を見終わった後
このシナリオを見たのですが、どうも見覚えのないシーンがあるのです。中でも重要な
のが次のシーンです(都合と趣味により演出、台詞が一部変わっています)。
○二乗院・庭先
蹴鞠に興じた後、 源氏がもどってくる。紫の乳母の少納言が近づいてなにやら
耳打ちする。
源氏 「・・・なに?!紫が女に・・。そ、そうか、とうとう・・・。フフ、ヒヒヒ、
お、俺のものだ、俺のものだぞ! ハハハ、クァッハッハッハッハッ・・・」
天を仰ぎ歓喜の声をあげる源氏。あっけに取られて源氏を見つめる周囲の人々。 (「ハーレムじゃあ!」を思い出している私・・・。カットすべきだった)
○二条院・一室
紫が寝ている。そこへ源氏が入ってくる。紫を見つめる源氏。
源氏 「(心の声)・・・寝込みを襲って一気に・・・。いやいや、ここは目覚めるの
を待ってやんわりと・・・。」
やがて、紫が眠そうに目を覚ます。
紫 「・・・お兄様・・・。」
源氏 「紫の起きるのを待っていたんだ。」
源氏、口元がひきつっている。
紫 「何かご本を読んでくださるの。」
源氏 「いや、そうではなくてね・・・。」
紫 「・・・・・・?」
源氏 「紫・・・。」
堪えきれず、紫の唇にむしゃぶりつく源氏。驚いて源氏を突き放す紫。
紫 「やめて、お兄様!」
目をぎらぎらさせ、紫を追い詰める源氏。
源氏 「どうした?なぜ逃げる?・・・紫、お前が大人になるのを待っていたんだ。ぼ
くたちは夫婦になるんだから・・・。いいだろう?」
紫 「どうしてこんなことを?」
源氏 「どうしてって・・・知らぬ訳でもあるまい。それとも、少納言はなにも教えな
かったのか?」
紫 「・・・・・・・」
源氏 「(つぶやいて)気の効かぬことを・・・。まあよい。さあ、こっちへおいで、
紫。たっぷりと可愛がってあげるから・・・」
源氏、腕をのばして紫を抱きすくめようとする。逃げる紫、近くにあった冊子
を投げる。冊子は源氏の肩に当たる。息を呑む紫。
源氏 「悪かったよ。もう何もしないから・・・・。そんなにおこらないで。」
紫 「・・・・・・」
源氏、冊子を拾いあげる。紫も手伝う。
紫 「・・・ねえ、お兄様・・・いつか仰ったことがあるでしょう。」
源氏 「・・・・・・」
紫 「北山へ私を迎えに来て下さった時・・・雀は篭の中より大空を飛び回る方が幸
せかもしれないって・・・。」
源氏 「・・・・・・」
紫 「・・・・・・」
源氏、ニタリと笑う。
源氏 「それなら、ぼくはお前の空になろう。」
紫 「キャッ!」
源氏、至近距離に入った紫をいきなり押し倒して覆い被さる。
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幼いころから好みの女にしようと手塩にかけてきた紫と、ついに結ばれるという重要な
シーン。どこか源氏物語ではないような気もしますが、それほど違ってもいないでしょ
う。これほど重要なシーンを、なんで覚えていないのでしょう。こればかりでなく、雅
やかでしかも艶やかなシーンがシナリオの随所に見られるのに、さっぱり思い出せない
のです。居眠りでもしてたんでしょうか。そんなバカな・・・。
古典文学がアニメ化されるということは、これまで滅多にありませんでした。あって
も、いわゆる時代劇です(と言いつつそういうものを思い出せない)。時代劇より、風
雅で妖艶な平安文学をもっとアニメ化してもらいたいものです。18禁でやれば、原作
の雰囲気を余すところ無く映像化できるでしょう(そうかな)。白い肌に流れる黒髪、
赤い唇から微かに漏れる吐息・・・・・。いい雰囲気だろうけど、真面目に創ってくれ
るところは無いでしょうね。源氏物語自身の話では、活字媒体の田辺聖子作「私本・源
氏物語」が面白いでしょう。同じ作者の「異本・源氏物語」も「私本」と同様のノリで
書かれています。「源氏物語」ではないけれど、最近出版された「桃尻語訳・枕草子」
には秀逸な紫式部評が出ていますので、ご一読をお勧めします。
いやはや、また長くなってしまいました。300bpsでアクセスしている方には、
本当にご迷惑をおかけしました。きょうはこのへんでやめておくことにしましょう。
次回は、・・・「悲しみのベラドンナ」なんてやりたいけど、ビデオどこにあるだろ。
人の迷惑を省みないMARUTATSUでした。