#72 Article 1544 Posted at 1991/05/18 18:59:25 by 根本 剛志 (MAP1144) [NO.723]
Subject: 鏡の向こうのエリ
#723・Aパート 《《《 鏡の向こうのエリ 》》》 「相変わらずエリさまはお手伝いでご多忙なようだ。公爵夫人にはもう少しエリ さまを大切にして頂かねば困るのであるが・・・」 ワンダユウはママ(公爵夫人)の人使いの荒さを身をもって体験したことがあ る為か、エリの身の上を案じていた。ママ自身はお手伝いはエリへの『しつけ』 の一貫であると言ってはいるが、そのしつけに全く関係の無いワンダユウでさえ 恐ろしい程の仕事量を任されてのであるから、単にママが楽をしたい為にお手伝 いをさせているのだとワンダユウは思っていた(事実そうではあるが(^_^;))。 「おいたわしやエリさま」 「じいさんちょっとオーバーじゃない?」 草ばの陰からエリを見守るワンダユウとチンプイであった。 「じゃぁエリちゃん。今度は庭の草むしりもよろしくね」 春日家の庭は普通の庭と違って草が伸び易いらしい(笑)。 「えぇ~~~っ! それじゃ内木さんのところには行けないわ!!」 「それなら今月のお小遣い20%OFFにするわよ」 この言葉にエリは服従しなければならない。何はなくとも、とにかく今は内木 よりも小遣いが問題である。仕方無しにしゃがんで草をむしるエリ。 「あぁ・・・ 体が2つあったらどんなに楽かしら・・・ そうすれば、内木さ んのところや、さやかとほたるのところに一気に遊びに行けるのになぁ・・・」 その時、春日エリ(12歳)はこれから起こるであろう不幸を、全く知らなかっ た。 「ごめんくださいにゃぁ」 いまだエリは帰宅していない午後の昼下がり。ベランダから来訪者の声が聞こ えてきた。応々にしてベランダからの来訪者はマール星もしくは他の星の異星人 であることが多い。エリがこの場に居た場合の反応はまず来訪者に対して邪見な 行動を執るものである。だからエリの居ない時にこの(誰かは分からない)来訪 者が来たのはラッキーであったと言えなくもない、とベッドに寝ころんでいたチ ンプイは思う。 「どなたですか?」 早速この来訪者を迎えようとチンプイはベランダに通じるガラス戸を開けた。 と、そこにはチンプイのもっとも苦手とする黒いネコ族アニマルタイプが居た。 チンプイがその場で硬直したのは言うまでもないだろう。 「マール星から宅急便ですにゃ。申し訳ありませんが確認のサインをお願い致し ますにゃぁ」 その異星人は礼儀正しくチンプイにこう言うとチンプイに荷物を渡そうとした。 が、先にも書いた通りチンプイは空中で硬直している。 「いかがなされましたにゃぁ?」 それでもチンプイの反応はない。仕方なくその異星人はチンプイの手(?)にイ ンクと付けて伝票用紙にその手形を押して用を成した。 「毎度有難うございましたにゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」 ネコ族アニマルタイプの異星人はそう言葉を残してトラック型宇宙船で遥かか なたの宇宙を目指し青い空に溶け込んで行く。チンプイは今だ硬直しつつ、やが て完全凝固したのか、そのままの体勢で一気に床に落ち、チンプイのすぐ脇には キレイに包装された荷物が鎮座していた。 それからどのくらいの刻が流れたであろう? エリの元気なかけ声が庭から聞 こえて来た。そのエリのかけ声で目を覚ますチンプイ。ドタドタと階段を駆け上 がる音が次第に大きくなり、勢い良く部屋のドアが開く。 「チンプイただいまぁっ!!」 「お帰りエリちゃん」 チンプイはエリの元に飛んで行くと、エリはチンプイの顔をまじまじと覗き込 んだ。 「チンプイ、どうしたの? 何か顔が青いわよ??」 「ううん、なんでもないよ」 「それなら良いけど」 チンプイの笑顔で答えるこの言葉をエリは信用することにした。 「ねえエリちゃん、宇宙宅配便でへんな小包が届いてるよ」 「なによ、また変なものワンダユウさんが送ってきた訳?」 エリのその言葉に、チンプイは今更ながら初めてその荷物をまじまじと見る。 だが箱の表側には何も書かれてはいなかった。 「何なのかボクにも分からないなぁ。開けてみるね」 そう言うとチンプイはガサゴソとその箱を開け、中身を取り出そうと格闘して いる。やがて一つの物を見つけたが、それ以外は何も入っていなかった。果して、 この荷物の差出人は一体・・・? 「ううん。ワンダユウさんとは違うみたいだよ。中身は鏡が一枚入ってるだけみ たいだけど」 「ふ~ん、見せてみて」 チンプイから手渡された鏡を、エリはしげしげと覗き込んでみる。一見なんの 変哲もない鏡のようであるが、次第にエリはめまいのような感覚に襲われた。 「どうしたのかしら? なにか変な気分になってきたわ・・・」 エリは鏡を顔から逸し床に置くとなにやら気分が悪そうに右手を胸に当てた。 チンプイはエリのその様子をうかがいつつ鏡を覗き込む。すると映っていない筈 のエリが今だにその鏡に映り込んでいた。 「エリちゃん! この鏡にエリちゃんが!!」 「え?!」 エリはチンプイ言葉が聞き取れなかったが、彼の指さす鏡に何かがあったこと は充分表情を見て理解出来た為、エリは鏡の上に上体を移動させ覗き込んだ。 「ん、ん? きゃ~~っ!」 その時である。鏡から黒々とした物体が一気に吹き出すように見えたかと思う と、その物体は高速で回転しつつその黒色を周囲にまき散らし始めた。ちぎれた 破片(?)は空中で何事もなかったように消えて行き、部屋の空気はその回転と共 に恐ろしい気流を発生させている。やがて回転する物質が少なくなったと、その 中心に誰か。そう、人が居るのがうす目を開けている二人には見えるのであった。 そして完全に周囲で回転する黒色の物体が無くなり、今まで嵐のような気流を避 けようと両腕を前方にかざしていた二人はその腕を下ろした瞬間、自分達の目に 飛び込んで来たその光景に目を見張った。 「わわっ!! エリちゃんが鏡の中から出てきちゃった!?」 そう。二人が見たのは紛れもないエリ自身であった。今だ治まっていない風に 髪とスカートをなびかせながら、そのエリは二人の目の前に存在していた。 「チンプイ。こ、これって、どう言うこと?」 「僕にも分からないよ。こんな鏡を使う科法ってボクは知らないもん。あ! 目 を開いたよエリちゃん」 「なんですって!?」(本物) 『なんですって!?』(偽物) チンプイの耳にステレオでエリの声。 「なによ! 私のマネしないでよ! 偽物のくせに!!」 『あなたこそ! 私のマネしないでよ!!』 にらみ合い、汚い言葉の応酬をしている二人を見上げて、チンプイは何がなに やら分からなくなってきた。しまいには二人のどちらが本物なのか分からない程 になってしまい、チンプイは取っ組み合を始めた二人をよそに、ベッドの上で二 人を眺めている。 「ところでさ、エリちゃん」 「なに? チンプイ??」 『なに? チンプイ??』 すかさずハモるその言葉に、チンプイの額に一筋の汗が・・・ 「今日は内木くんのところに遊びに行くんだったよね?」 『そうよ。今日は内木さんと一緒におもいっきり遊ぶんだ!!』 「君、エリちゃんじゃないね」 チンプイの疑いの眼差しは、今すかさず口を開いたエリに向けられた。 「今日はママとデパートに買物に行くことになっているから、残念ながら内木さ んのところには行かないわ」 背後でもう一人のエリがそう言葉を発した。 「どうやら、エリちゃんのコピーでもなさそうだね。さぁ!君は一体誰!!」 しばらく沈黙を守っていたエリ(とソックリな女の子)の表情は軽い笑みを浮 かべたかと思うと、素早い動きで床に落ちている鏡を拾い上げ、部屋の片隅にエ リとチンプイをにらみつつ、笑みは不敵な笑いへと変貌して行った。 『エリっ!』 その言葉と共に、そのエリ(偽)は姿を消した。 「テレポート!?」 後に残るのは、このあまりの急展開についていけず、あっけにとられているエ リとチンプイだけであった・・・ 気にならない訳ではないが、あれから一晩経ち、エリは学校へ登校して行った。 テレポートで消えてしまってはチンプイにも捜すことは難しいし、勿論エリに捜 せるはずもない。この場合エリ(偽)捜しはチンプイに任せておいた方が良いと言 うものである。 「あ、さやかにほたる。おはよう」 エリが二人の姿を見間違えるはずはない。間違いなくエリは二人を確認してこ う言ったはずなのだが、前方に見える二人は全くエリを無視するがごとく、かえっ てその歩く速度が増したようにエリには思えた。 「(聞こえないのかしら?)」 エリは、それならばと一気に二人に駆け寄り、二人両方の肩に手を架け、その 耳元でこれで聞こえないことは無かろうと言う程の大声で言った。 「お・は・よ・う!!」 途端、さやかとほたるはエリから跳び退く。エリを見る二人の表情には怒りの 表情が在々と浮かんでいる。 「なによ! 昨日あれだけ私達を馬鹿にして、朝になったら忘れたなんて言うん じゃないでしょうね!!」 「そうよそうよ。いくら私だってあんなに言われたら怒るから・・・」 ほたるの表情は怒りから次第に悲しみに移り変わって行く。 そうは言われてもエリには全く何がなにやら分かろう筈はなく、かえって頭が 混乱していた。怒りの表情のさやかと悲しみにくれるほたるは、エリを置き去り にしたまま再び歩き始めた。親友の二人に思わぬ言葉をかけられたエリはそのま ま数分間立ち尽す。 「・・・・・・エリちゃん」 背後からの声に振り向いた。そこには内木がエリを見つめながら立っている。 だが、その表情にも、先程の二人とは違った意味でいつもと違う、ものをエリは 感じていた。エリが何か言おうとする前に、内木の方が口を開いていた。 「エリちゃん。昨日の晩のことだけど・・・」 昨日の晩? もたもやエリには訳の分からない展開に発展しそうな・・・ 「君の気持ちは嬉しいけど、でもイキナリ夜中に現れるのは僕は感心しないよ。 テレポートしていたみたいだけど、チンプイまで使って言うことじゃないよ。エ リちゃんがそんなことするなんて・・・」 【作者注・・・あまり深く考えないようにしましょう(笑)】 内木はそのまま何も言わず、エリの元を走り去って行く。 エリにはこの状況が全く見えない・・・ そのエリの背後に人影が現れ、まる でエリを笑っているようであった。 昼過ぎ。 今日は土曜の為、早く帰れたのはエリにとって有難いことだった。そして、そ の下校途中、今回のこの騒動は昨日のエリ(偽)の仕業に違いないとエリの確証は 益々大きくなってゆく。垣根を飛び越えた庭に、既にチンプイがスタンバってい た。 「おかえり、エリちゃん」 「ただいまチンプイ。それで、昨日の偽物は見つかった?」 「それがまったく見つからなくて、ボクも困ってるんだ」 「仕方が無いわね。じゃぁ見つからないなら相手に来てもらいましょう」 エリのその意外な言葉に、チンプイは思わず自分の耳を疑った。 「エリちゃん、それって一体どう言うこと?」 「実はねぇ・・・」 二人を物陰から伺っている存在が在った。 電話のベルが鳴っている。帰宅してからも昨日からのムシャクシャからか、食 事もしないで、さやかはベッドに伏せっていた。中々鳴り止まない電話に、気だ るそうに電話のある場所に歩き、受話器を取る。 「もしもし・・・」 さやかにしては元気の無い声であった。が、耳に押し付けた受話器から聞こえ てきた声に、さやかの目は一気につり上がり、相手との壮絶な舌戦を繰り広げ始 めたのである。 「なによ! そんなに喧嘩したいなら相手になって上げるわよ!! じゃぁ首を 洗って待ってなさい!!」 『ガチャン!』と落とされた受話器にエリの耳には耳鳴りが聞こえて来る程で ある。相当思いきり受話器を叩き突けたのであろう。 「ま、さやかならこの程度ですぐに頭に来るから楽って言えば楽よね」 「でもエリちゃんも結構怒りっぽいから人の事言えないね」 チンプイはエリの横でそう言いながらケタケタと笑っていた。 「なによぉ、チンプイたら意地悪なんだからぁ」 そう言いつつも、再びダイヤルをするエリであった。 陽も西に傾き始めた午後5時。かえでヶ丘公園の奥にある林の一角で、エリは さやか達が来るのを待っていた。チンプイの姿はその近くには無く、ただポツン とエリの姿が新緑ごしに見えるだけである。それから少々時間が経ち、3つの人 影が林の木々の向こうに見え始めた。一人は何か輝くものを持っている。 「遅くなったこと、取り合えず謝っておくわ」 エリを目の前にしてさやかはそう吐き捨てた。さやかの後ろには当惑したよう な表情の内木とほたるの姿がある。3人の姿を確認してからエリは口を開いた。 「何故私を呼び出したの?」 3人はエリの言葉に我を疑った。呼び出したのは当のエリではないか。それが 何故? この言葉に最初に、反射的に反応したのはさやかである。 「なに言ってるの? 私達を呼び出したのはエリの方じゃない?!」 「違うわ」 エリは真剣に、間髪を入れずにそう言い切った。 「私達を呼び出したのは・・・ 今よチンプイ!!」 「『対科法シールド』チンプ~~~~イっ!!」 その瞬間である。林中にこだまする悲鳴と、その声に呼応するかのように木々 は音を立てて揺れ動いた。気が付けば周りには夕方であると言うのに青い輝きが 取り囲み、外界との接点を全て失っている。そして、彼らの頭上でなんらかの気 配を感じ見上げるその上空で強い輝きがあったかと思うと、その輝きは見々うち にその輝きを失い、その中心の人間らしい物体がエリ達の前に降り立った。 「あぁ!?」 「エ、エリじゃない!?」 そう。例のエリ(偽)である。エリは勝ち誇ったようにエリ(偽)に向かってこう 言った。 「こんな単純な罠に引っかかるなんて、結構あなたって単純よね」 『そうよね。結局私の行動パターンは『貴方のコピー』なんだから』 この言葉にエリは目が点になってしまった。つまり、自分が単純なのはエリの 性格そのままであると言う訳である(^_^;)。決めたつもりが切り替えされて、エ リの立場は一気に登り調子から下落して行った。 「とにかく、正体を表せ! 科法『解除』チンプイっ!!」 チンプイのかけ声と共に、エリ(偽)の正体が・・・ 分かることはなかった。 依然としてエリ(偽)はエリの姿をしたままであったのだ。 『だめよダメ。私の正体を暴くには変身の時に使った鏡の封印を科法で解除しな い限り、強制的に科法の解除は出来ないように科法鏡に封印してあるんだから』 「ところで、その鏡って、何処にあるのぉ?」 相変わらず緊張の無い言葉でほたるがエリ(偽)に問う。 『じゃぁ教えてあげる。この林の入口にある草むらに隠して置いたのよ。もっと もその鏡もこの対科法シールドを解除しないと持ち込めないから教えても意味無 いでしょうけどね』 勝ち誇ったようにエリ(偽)はそう言うと笑い始めた。エリははぎしりをして悔 しがったが、この状態で対科法シールドを解くとエリ(偽)がテレポートで逃げる のは明かである。そんな中、ほたるが再び口を開いた。 「ところで、もしかしてその鏡ってこれのことなのかしらぁ?」 「あ! それ私のところに昨日届いた鏡じゃない!!」 高笑いをしていたエリ(偽)の笑いが止まり、一気に値の気が引いて行くのエリ 達には手に取るように分かった。慌てるエリ(偽)。 『な、何故それがそこにあるの!?』 「だって、落し物だと思ったから帰る時に警察に届けようと思ってぇ・・・」 「さすがほたる! エライ!!」 さやかがほたるの肩を叩きながらそう言う。エリ(偽)は冷汗をかいている。 「さて、チンプイ。あのエリさまの正体を暴いてくれる?」 「まかせてエリちゃん。科法『解除』チンプイっ!!」 瞬間、今度こそエリ(偽)の体が一瞬輝いたかと思うと、見る見る内にそのシル エットは小さくなって行き、やがてその正体が完全にエリ達の目前に現れた。 「ま、マジローさん!!」 「ふっふっふ、またしても私の『エリさま村八分計画』は失敗に終わったようで すな。しかし、私は決して諦めません。次回お会いする時は必ずやエリさまをマー ル星にお連れ致します。ではこれにて。科法『シールド解除』マジロー!!」 今だ子供のチンプイにはマジローの一点集中科法には叶うはずは無く(つまり マルチタスクよりもシングルタスクの方が軽いのと同じ(^_^;))あっさりとシー ルドを破られ、マジローはマール星に『逃げて行った』。もっとも本人に言わせ れば、これは『勇気ある撤退』だと言うに決まっているだろうが(^_^;)。 「しかし、マジローさんにも困ったもんだね。じいさんよりもタチが悪いって言っ たらありゃしないよ」 「ほんと。マール星の人達は疲れるけど、マジローさんはそれに3つくらい話を かけて突かれるわ・・・」 エリの言葉に、チンプイは笑って答えた。その時・・・ 「まぁ『めでたしめでたしで』で終わったのは結構だけど・・・ 結局私達を呼 び出したのは結局エリなんでしょう・・・!? さっきの『何故私を呼び出した の?』なんかじゃ私達は騙されないわよ!!」 背後からさやかの声が聞こえる。その声には相当な凄味が感じられた。 「あ、あはははは! さやか、アレは冗談よ冗談(^_^;)。マジローさんをおびき 出す為の作戦だったのよ(^_^;;;)」 だが、さやか&ほたる+内木の表情はニガ虫を噛んだような表情であり、これ はヤバイ! とエリとチンプイは事の次第を理解したか、冷汗を汗いている。エ リは小声で・・・ 「チンプイ、逃げるわよ!!」 「了解エリちゃん!!」 だーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!! 一気にエリはその場から駆け 出した。それを追うさやかとほたる、そして内木。 「こら! まてぇ~~~~っ!!」 もうこの時点で5人の顔には笑顔が浮かんでいた。 《《《 鏡の向こうのエリ 完 》》》 Aパートアイキャッチ「マジロ~~~~っ!!」 根本 剛志(MAP1144)