#4 Article 316 Posted at 1988/11/22 04:16:49 by W.M. (MAP009) [MEISAKU]
Subject: 悲劇の中での幸せな出来事について
以下の文章は、某全国ネットにアップロードしたものですが、内容的にもこのボ ードに関係していますし、せっかく長々と書いたのだからというわけで、こちらに もアップします。 ------------------------------------- 物語で登場人物に不幸な出来事が起こると、読者(または視聴者)は(まぁ一般 的には)その悲劇に心を動かされます。しかし、連続的に不幸が発生した場合、最 初の2,3回はそれに共感できても、次第にその人物に悲劇的事件が起こることに 慣れてしまい、それ以後の不幸については、それほど感動しなくなります。起こる 事件の悲劇的要素が段々大きくなっていくようにしても、視聴者が「悲劇慣れ」を してしまい、予想通りの効果をあげなくなってしまうのです。 では、いくつもの悲劇的事件によって、登場人物がどんどん不幸な境遇に落ちて いくのを表現し、なおかつ視聴者を「悲劇慣れ」させずに共感させるには、どうし たらよいでしょうか。 この視聴者の「悲劇慣れ」を防ぐために、最もよく使われる(と私が考えている) 手法としては、「不幸と不幸の間に適当な間隔をおいて、登場人物にとって比較的 幸福である事件をはさむ」というものがあります。つまり、 不幸・不幸・不幸・不幸・・・・・・ と続けるのではなく、 不幸・不幸・幸福・不幸・不幸・幸福・・・・・・ と、2,3個の不幸な出来事の後に、幸福な出来事を挿入するわけです。幸福な出 来事を挿入すると、それまでの悲劇による不幸な境遇作りが無駄になってしまうの ではないかと思われるかもしれませんが、それまでに起きたいくつかの悲劇によっ て登場人物がすでに不幸な状況にあるのですから、ほんのちょっとした幸せでも十 分に「幸福な出来事」としての機能を果たします。また、その「ちょっとした幸せ」 が直接または間接の原因となって、次の不幸な事件を招き、それによって、よりい っそうの悲劇的境遇に登場人物が入り込んでしまうようにすると、この間にはさむ 幸福は結果的には悲劇に荷担していることになり、決してそれまでの悲劇的なスト ーリー展開を打ち消すことにはなりません。なお、実際の物語作りとしては、幸せ な出来事をあらかじめ起こしておき、その後に不幸な事件を2,3連続させること のほうが多いようです。 例を挙げてみましょう。題材は「小公女セーラ」です。 1. 屋根裏部屋に住んでいるセーラのもとに、隣の家から豪華や食事が秘密に差 し入れられる。(幸福な出来事) 2. それが、ミンチン女史に見つかってしまい、食器ともども総て取り上げられ る。(幸福な出来事が引き起こした、不幸な出来事) 3. さらに、セーラは屋根裏部屋から追い出され、馬小屋で寝起きしなければな らなくなる。(さらに不幸な出来事が起き、それまで以上に不幸な状況に落ち 入る) 続いてもう1例。 1. 馬小屋に住むセーラが、ハローウィンでの楽しいひとときを過ごす。(ちょ っとした幸福) 2. そのハローウィンでの事件によって、馬小屋が火事になってしまう。(幸福 な出来事が間接的に関係している、不幸な出来事) 3. そして、セーラは馬小屋からも追い出され、ひとり冬の街に出て行かなけれ ばならなくなってしまう。(さらなる不幸によって、より悲劇的境遇となる) 実は、この2つの連続した例は、まとめて1つの「幸福・不幸・不幸」と解釈す ることもできます。つまり、 「屋根裏部屋への差し入れ」 (幸福) 「屋根裏部屋から馬小屋へ」 (不幸その1) 「馬小屋から街へ」 (不幸その2) と考えることもできるわけです(ネストしていると言ってもいいのかな?)。 このように、不幸な出来事が連続的に発生し、それによって登場人物が悲劇的境 遇にどんどん落ち込んでいくというストーリー展開では、その間に挿入される幸せ な出来事は、必ずしも物語の悲劇的性格を損なうとは限らず、それどころか悲劇と しての物語が、視聴者にとってより共感しやすいものになるために有用ですらある のです。 ------------------------------------- MAP009 / W.M.