#148 Article 22052 Posted at 1995/10/11 07:21:46 by DELTA (MAP5804) [STORY]

Subject: ♪大人になったら何になる?

今回、ほのぼのです。おまけに何も起こりません。

   (「お師匠様、よく野犬退治なんて細かい仕事引き受けたなあ…」)
   どろしーちゃんのほうきの少し後をついて行きながら、しいねちゃん物思いにふけ
  っています。エインシェントドラゴンすら呼び出せると噂されるどろしー師匠、仕事
  料は法外と言えるほど高額です。番組中では超天才セラヴィと直接比較された為、そ
  の能力は過少評価されがちですが、「この人でダメだったら、ほぼ諦めるしかない」と
  まで言われる、この国第二位の魔法使いなのですから。
   (「さてはまたセラヴィさんと喧嘩して、うさ晴らしにブティックかどこかで散財し
  たな?ストレスが溜まると、何故か服を買うんだから…」)
   実家から持ち出した財産は、まだいくらか残っていますが、こんなペースでドレスや
  宝石に変わって行くのでは、あと十年と保たないでしょう。再び翻意してセラヴィと
  結婚でもしてくれれば一石二鳥なのですが、こればかりはしいねちゃんの意向で決ま
  るものではありません。

   さて、たかが野犬に一財産使おうという物好きのいる村はどこでしょう?うりずり
  山から峠を二つ超え、ようやく開けた狭い盆地には、数軒の農家があるだけです。どろ
  しーちゃん、降りていきますね…。
   「おお、どろしー様、このような寂しい所によくぞいらっしゃいました」
   子供達同士で意識する事はありませんが、一般に魔法使いは畏怖の念をもって見ら
  れています。野犬に怯える山間いの寒村の人々ならなおさら、まして相手は「眉毛一つ
  動かしただけでトロールが消し飛ぶ」どろしーちゃんです。村人総出で、しかし遠巻き
  に囲んで村長との交渉を見守っています。
   「早速作戦会議に入りましょう。群れの規模は?それと大体の襲来方向を教えて頂戴」
   村人達が口々に「魔法使いだ」「まだ若いけど任せて大丈夫か?」「どろしーっていやぁ
  この国二番目の…」「あの男の子、お弟子さんかしら?」「ほうきに乗ってたぞ」などと小
  声で噂するのを無視して、どろしーちゃん村長の方へつかつかと歩み寄ります。
   とりあえず手持ちぶさたなしいねちゃん、固まってひそひそ話をしている村の女の
  子達に向かって微笑みながら手を振ります。すると「きゃ~っ!」という嬌声と共に、
  女の子達は家々の中に飛び込んでドアを閉めてしまいます。
   「ぼ…ぼく、何か悪い事でもしたんでしょうか?」
   君ねぇ…自分の顔、鏡で見た事あるだろ?ウラヤマシイ。お鈴ちゃん、後々苦労するぞ…

   「それでその…本当にこんなお金でやっていただけるんでしょうか?」
   「誰もあたしがやるなんて言ってないわよ。しいねちゃん、こっちに来なさい」
   「え゙…ぼくが…退治するんですか?」
   「そ。大体の話は聞いてたでしょ?喉笛かき切られる寸前まであたしは手を出さない
  から、作戦立てて罠仕掛けて、一人でやってごらんなさい」
   「…とほほ」
   「魔法使いの初仕事といったら野犬退治と相場が決まってるのよ」


   次の日は月曜日。完徹状態のまま登校したしいねちゃん、授業中は何とか保っていま
  したが、給食後の昼休みで爆睡に入ってしまいます。心配そうに見守るお鈴ちゃん。で
  も心の中では、ほっぺたをつんつんしたいという欲求と戦っています。
   チャチャ、やっこちゃんが読んでる「月刊マジカルファン」が気になるようですね。後
  ろから覗き込もうとしてヒョコヒョコ動き回っています。
   「あ゙~もう!うっとうしいわね!後で見せたげるから静かにしてなさい!」
   「ね~ね~、それ今月号でしょ?あたし達の音速突破のこと載ってる?」
   「載ってるわよ。"16歳未満の超音速飛行禁止法案"のついでで。全く…あんたさえあ
  んな所飛んでなきゃブツブツ…」
   例のニアミス事件の後、超音速飛行はついに免許制になってしまいました。実技に"遠方
  透視"が必須になり安全性は増したのですが、(特に)やっこちゃんは不満そうです。
   (ちなみに、音速突破最低年齢の記録を4年も引き下げたこの三人の記事は、もみじ学
  園の園長先生の血圧を60ほど持ち上げましたとさ。)
   「だって、ぶつかって来たのはやっこちゃん…」
   「一々口ごたえするんじゃないわよ!大体あんたはいつもいつもいつもあたしの邪
  魔ばっかし…」
   「しぃーっ!!しいねちゃんが起きちゃいますぅ!」
   お鈴ちゃんがこういう強い行動に出るのはめったに無いこと。クラス中が静まり返
  ってしまいました。お鈴ちゃん、ちっちゃな身体をさらに縮めて赤くなってます。
   「そ…そういえばゴールドスミスの町の一件、どうなりました?」
   てれ隠しの笑みを浮かべて、無理やり話題を変えようとするお鈴ちゃん。やっこちゃ
  んもその辺は察してあげたのか、
   「全滅だって書いてあるわ。悲惨よね~、学校出たばかりなのにドラゴンと戦わされ
  て。勝てる訳無いのに…」
   「え、何?何?ゴールドスミスがどうかしたの?」
   「チャチャ…あんたねぇ、ニュース位読みなさいよ。グラビアページとゴシップ記事
  しか見ないのかしらホントニモゥ。いい?」
   金鉱の町ゴールドスミスの坑道に、最近レッドドラゴンが住み着いてしまったので
  す。荒くれ者で鳴らす坑夫達も、相手が相手だけに手も足も出せません。水虫と結核の
  薬が専門だった、この町唯一の魔法使いが無理やりドラゴンの巣に送り出され…帰っ
  て来ませんでした。怒ったドラゴンは町を襲い、一夜にして焼け野原にしてしまった
  …というのが事件の全貌です。
   「レッドドラゴンと一人で戦って勝てる魔法使いなんて、世界中でも100人いるかい
  ないか。でも魔法の国にはそのうちの71人が住んでる…って記事にあるわ。セキュリ
  ティにお金をケチった報いよね」
   「あたし、どろしーちゃんが出したドラゴンに勝った事あるよ。えっへん!」
   「あんたじゃなくてマジカルプリンセスが、でしょ。ネタは割れてるんだから」
   「でも…でもさ、あたしが大きくなったらあんな風になるって思わない?」
   「ま、背恰好は似てくるだろけど、能力はどうだか…大体あれは王家のアイテムの力
  であって、あんた自身はデカい化け物を呼び出せるだけじゃない」
   チャチャ、すみっこでいぢけて床に「の」の字なんか書きながら、「♪わぁたし~は~
  かわいい~」とか歌ってます。でもきっと、5時間目までには立ち直るでしょう。

   「こんにちわ~!リーヤ君います~?」
   満面の笑顔と華やいだ声と共に、マリンちゃんがバナナ組に顔を出します。
   「リーヤさんなら運動場の筈ですけど…いませんでしたか?」
   「いないからこっち来たのに('ヘ`)…んもう、どこ行ったのよぉ?」
   「…何よマリン、リーヤならやっぱり運動場にいるじゃない」
   窓の外を横目で見ながら、やっこちゃんが答えます。
   「え!?どこどこ?りーやくぅ~~ん!」
   ひとっ飛びで窓辺に来たマリンちゃん、きょろきょろと地上を見回しましたが、例の
  犬っころがボールを追いかけ回しているのが目立つくらいです。
   「何よぉ、やっぱりいないじゃない。ひどいわ、やっこちゃんまであたしをバカにする
  のね?いいわよもう、自分で探すから。くすんくすん…」
   マリンちゃん、未だに「の」字を書いているチャチャのずきんをはぐったり、スカート
  をめくって覗き込んだりしています。
   「マリンさん、まだリーヤさんの事、知らないんでしょうか?」
   「たぶん一生ああだと思うわ。人魚ってあんなのばっかしなのかしら?道理で"レッ
  ドデーターアニマル"に登録されるわけだわ。こりゃマリンの代で絶滅ね」
   マリンちゃん、どこから取り出したのかハリセンでやっこちゃんをはたきます。
   「勝手な事言わないでよ!見てらっしゃい、リーヤ君の子供いーっぱい作って海底帝
  国築いてやるんだから!」
   「…という事は、マリンさん達って卵から生まれるんですか?」
   「人生の楽しみ半分無いのね」
   「ちっが~~う!!」

   園長先生がカランコローンと予鈴を鳴らします。昼休みはあと5分。運動場で遊んで
  いた生徒達が教室に戻って来ます。しいねちゃんがまだ起きないので、お鈴ちゃんは
  いよいよ心配になってきました。ほっぺたつんつんしても、呼びかけても、肩をゆすっ
  ても、わきの下こちょこちょしても目を覚ましてくれません。
   「やっこさん、どうしましょう?」
   やっこちゃん、いたずらっぽい目で「キスしてみたら?」とかお鈴ちゃんをからかい
  ます。
   「ま、冗談はさておき、いざとなったらこの一本、やっこ印の覚醒剤ヤバ『スピードア
  ップW』!習慣性が強いから連用しちゃだめよ~!……コホン…があるけど」
   周りの驚愕の視線に気が付き、陶酔しかかったやっこちゃんは我に返ります。
   「え…遠慮しますぅ(^_^;)。でもやっこさんってどんな薬でも持ってるんですね。全
  部自分で作るんですか?」
   「まーね(^^)v。とりあえず惚れ薬と強精剤と毒薬だけ調合できれば商売はできるけ
  ど、(BGM CD1 Tr4 1:18~)70話でセラヴィ様に出会ってあたしは知ったの。この人こ
  そあたしの目指すべき高みなんだって…」(@。@)ホシフルメ
   「でも、やっこちゃんの薬って眠り薬やしびれ薬ばっかし。飲ませるか、かかるかすれ
  ば対抗(レジスト)できないからってセラヴィ先生に使う気でいるのよね」
   やっと立ち直ったチャチャがBGMをぶった切ります。
   「その通り…って何言わせんのよこの娘は!恥ずかしいわね」
   チャチャ、この抗議を無視するように、
   「しいねちゃん起きないね。よっぽど疲れる事でもあったのかな?」
   「そうみたいですね。そっとしといてあげたいけど、もうすぐラスカル先生が来て叱
  られちゃいますぅ」
   だんだんしいねちゃんの周りに人垣が出来てきます。何人かが背中を指でつつーっ
  としてみたり、耳の後ろに生あたたかい息を吹きかけたりしましたが、眠りはそれ以
  上に深いようです。90分といわれる睡眠周期をひとまわりしない限り、目覚めはない
  でしょう。
   「おう、みんな集まって何やってんだ?」
   グランドから直接窓に飛び込んでくるりと一回転、人間形態に変化したリーヤ、やっ
  こちゃんの「その入り方、止めなさいよ。危ないから」という注意をVサインでかわし、
  開口一番こう聞きます。
   「あ、リーヤぁ、しいねちゃんが目を覚まさないのよ」
   「本当だ。よく寝てんなぁ」
   ほっぺたをむにーっと引っ張ったり、鼻をつまんで顎を押さえたりしても起きない
  しいねちゃんに、むしろ感心してしまうリーヤ。
   「じゃあれやってみよう。じいちゃん秘伝の起こし方」
   「だ…大丈夫かな…」
   「大丈夫!これで起きなかった奴はいない!」
   リーヤの意図に来付いたお鈴ちゃんが止めに入るより早く、頭突きがしいねちゃん
  に命中。しいねちゃんようやく目を覚ま…したというんでしょうか?この状態を。
   「ほえほえ~」
   「さ、二度寝しないうちにこれ飲んで。やっこ印の"モカフェインC"!効果は落ちる
  けど習慣性無いわよ。副作用で喉が渇くけどね」
   「はいはい~」
   しいねちゃん、言われるままに瓶を飲みほします。ゆうべの野犬退治でもらった報酬
  のほとんどを、やっこちゃんに巻き上げられたのにも気付いていません。
   「あら、けっこう持ってるわね。とりあえず材料費は回収しなきゃね」

   「ガキども席につけぇ!!5時間目は魔法史だああぁぁ!!バシイイィィ!」


 MAP5804  なぁ~んにも起こらない一日でした  DELTA_WAVE

P.S お鈴ちゃん、ACアダプターの端子を口の中に入れてやれば、しいねちゃんは起きた
   と思うよ。(爆)