#121 Article 533 Posted at 1993/02/26 09:14:48 by 結城たけと (MAP2864) [STORY2]

Subject: 青空町に陽は落ちて。

最後の上映が終わった次の日、その街には誰もいませんでした。

映画館の入り口はシャッターでかたく閉ざされ、看板も取り払われて、
そこが映画館であった事を物語るものは、なに一つありませんでした。

皆の憩いの場であった喫茶店にも人気はなく、窓や扉には板が打ちつけられ、
廃屋と化していました。

皆、「時」の大通りを「未来」へ向かって行ってしまったようです。
「館長」は「未来」で新しい映画館を作るようです。
そこへ向かって進んで行った人。また、そことは違う別の方向へ進んで行った人。
各々がそれぞれの方向へ向かって、過ぎ去って行きました。

『僕も、この街を出よう。』
リュックサックに思い出をいっぱい詰め込んで。

でも映画館の前まで来て、考えが変わりました。
ここでなら、今までやり残してきた事を少しでも取り戻せそうな気がします。
大人になる前に、ちょっとだけ子供時代のガラクタを整理してから
先へ進んでも、遅くはないはず。

それに、彼らはこの後、何に「変身」するのでしょうか。
自分自身の「変身」も見てみたいですが、ここにいれば、彼らの「変身」が
見られる気がします。「ガンバーチーム」ではなく、他の「何か」に。
そして、彼らが「変身」を遂げた時、看板が掲げられ、ネオンが灯され、
きっと、かつての「水曜日」のように人々が戻ってくる。

そんな気がした僕は、ここに留まる事を決心しました。

僕の住むこの街では、エンディングと同じ景色が見えます。
地下鉄を降りて、家へ帰る途中の丘を上がっていくと、植物園の木立の向こうに
印刷所のビルのシルエット、そして青空町と同じ夕焼け。
この夕焼けの彼方には、どんな世界があるのか、どんな人たちがいるのか。
あそこまで駆けて行けば、「彼ら」に会えるかもしれません。


それにしても、人々はどうして、先へ先へと急ぎたがるのでしょう。

過去にも、現代にも、未来にも、そして僕たちが見つめ続けたあの青空町にも、

やがて陽が落ちる時がやってくるというのに。


                                          結城たけと (MAP2864)