#12 Article 3306 Posted at 1988/10/31 02:23:07 by ザク (MAP652) [KOIBITO]

Subject: こないだ、友人宅にての会話

誰か  僕の落とした肩  拾って下さい
 
  『あたし、結婚するかもしれないんだ』  
  『ふうん。誰と?』  
  『従兄弟の同い年の子と。あんまり会ったことないんだけど、母親が勧めるもんだから
それでもいいかなって思って』  
  『へーえ。君にしちゃ意外だね。そんなにあっさり決めちゃうなんて』  
  『まだ本当に決めたわけじゃないけど・・・』  
  『でも、そうなってもいいって思ってるんだろ?』  
  『・・うん。それで東京に会いに来たんだけど、でも・・・』  
  『でも、何?』  
  『・・うん・・・』  
  『ははあ、なんかあるわけだ。君を思い切らせない深い訳が』  
  『ううん。そんな大した話じゃないんだけど。・・・あたし、昨日旭川からきたんだ』
  『あれっ。千歳からじゃないんだ』  
  『うん・・・旭川でね、どうしても確かめとかなきゃならないことがあって。こっち来
る前に』  
  『何だよ。ラリーの打ち合わせか?』  
  『違うよ。・・・あのね、旭川にね、・・・あーあ、言っても信じないだろうな』  
  『言うだけ言ってみろよ』  
  『変な奴なんだけどさ、あたしのことすっごく好きで結婚したいって男がいるんだよね
。そいで旭川で会ったんだわ、こっち来る前に』  
  『ほっほう。北海道のスピードクィーンに惚れるたあ見あげた奴じゃない』  
  『ううん。情けない奴なんだ。本当にあたしのこと好きならさあ、止めるじゃない。行
くな、俺と結婚してくれってさあ』  
  『引き止めなかったわけ?』  
  『そ。蚊の鳴くみたいな声で言うんだわ・・・君が行ってしまうのを、僕には止めるこ
とができないって。それであたしが、じゃあ行ってもいいのねって言うと・・・行ってほ
しくないけど、君がそれで幸福になるのなら、僕には止められない・・・』  
  『何だそいつは。どんな男なんだ?』  
  『名寄か士別の市役所行ってて、年は一つ下かな。10ケ月くらいだけど』  
  『やっぱ、ラリーで知り合ったのか?』  
  『うん』  
  『乗ってる車は?』  
  『前あたしが乗ってたのと同じ。MG』  
  『ふうん。それで運命的な出合いだと感じたのかもしれないな、市役所の彼としては』
  『かもね』  
  『うーん。しかし優しいと言うか気が小さいと言うか、はたまた自分に自信が持てない
奴と言うか・・・ボクにはキミを止めるコトができないんだ、か』  
  『うまぁい!そっくり』  
  『何時間くらい話したんだ?その時』  
  『2時間くらいかな。空港で』  
  『よくまあ、話すことが有ったもんだね彼も。・・・で、最後どう別れたの?』  
  『別に・・・飛行機の時間になったから、じゃあ行くねあたしって・・・』  
  『彼、どうしてた?』  
  『どうも・・・。ただ座ったまま、あたしを見てて、それからガックリ肩を落とした・
・・』  
  『・・・ふうん。・・・きっと今頃、彼いるわ』  
  『え?』  
  『今頃まだ空港にいるわ』  
  『ま、まさかあ。今、夜中の3時だよ』  
  『だって忘れ物したんだもの。捜してるわ。ブツブツ蚊の鳴くような声でつぶやきなが
らさ』  
  『?』  
  『・・・誰か知りませんか。誰かボクの落とした肩、拾って下さい・・・』  
  『ぷっ』  
  『はっははは』  
  『あはははは』  
  『こーら!オマエ何時だと思ってんだ。早く寝ろこの!』  
  『お兄ちゃん、あたし・・・明日すぐ帰る。朝になったら羽田まで送って』  
  『え?だって明日オマエ・・・』  
  『や・め・た。朝一番で旭川に帰るわ』  
  『・・・なんでよ?』  
  『まさか・・・』  
  『・・・うん。あたししかいないもんね。あいつが落とした肩を拾ってやるのって』  
                                                                              了
これは95%実話です。
                                                  佐久の字